研究課題
糖尿病性神経障害(DN)は糖尿病の合併症の中でも最も頻度が高いとされているが、未だ有効な治療法及び予防法は無い。DNは、患者のQOL及び生命予後と深く関わるため、原因解明及び有効な治療法の開発が急務である。Cdkal1は、2型糖尿病危険遺伝子の一つであるが、その分子機能はリジンに対応するtRNAのチオメチル化修飾酵素である。我々は、Cdkal1欠損マウスに高脂肪食を長期間投与すると、下肢の感覚運動神経障害が頻発することを見出した。そこで本研究では、Cdkal1欠損マウスがなぜDNを発症しやすいのか、その分子機構を解明することにより、DNの分子メカニズム解明と同疾患新規マーカーならびに有効な治療法を提示することを目的として実施した。平成28年度は、KOマウスにおける神経栄養因子の後根神経節細胞内への蓄積について免疫電顕で検討した。神経栄養因子の蓄積は認められなかったが、小胞体の膨張と層構造の崩壊が認められ、小胞体ストレスが誘導されていることが明らかになった。次にKOマウスの感覚神経機能の評価を形態学的に検討した。その結果、神経繊維の脱落がKOマウスの末梢感覚神経に認められた。さらに、KOマウス末梢神経の神経栄養因子翻訳時の誤翻訳、小胞体ストレス、神経細胞死の有無について検討した。WTおよびKOマウスから後根神経節を摘出し、初代細胞培養をした。その後、NGF、VEGFA、NT-3を各特異抗体で免疫沈降し、SDS-PAGEゲルに電気泳動することにより、WT神経細胞とKO神経細胞の神経栄養因子の翻訳速度及び翻訳精度について比較検討したところ、KOマウスでは神経栄養因子の翻訳速度が低下していた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた研究について、すべて実施することができた。Cdkal1ノックアウトマウスの後根神経節細胞内に神経栄養因子の蓄積は認められなかったが、小胞体ストレス像を確認することができ、当初の仮説どおり、糖尿病性神経傷害に分子機構として、tRNA修飾低下により誤翻訳が生じ、その結果小胞体ストレスを惹起することが示された。
申請書の計画通りに、Cdkal1欠損マウスを用いて糖尿病性神経傷害の分子機構を解明し、さらに同マウスに対するエペリゾンの効果について検討する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 備考 (1件)
Nucl. Acid Res.
巻: 45 ページ: 435-445
RNA
巻: 22 ページ: 1400-1410
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http://kumamoto-physiology.jp