研究課題
生活習慣病創薬を目指し、アンドロゲンの抗メタボ作用を保持しつつ、前立腺刺激作用を認めない選択的アンドロゲン受容体修飾剤(SARM)・S42に関して以下の研究を行った。1.新規SARM・S42の抗メタボ・抗糖尿病作用に関する研究先行研究においてS42を高脂肪食負荷B6マウスに16週間皮下投与したところ、有意の内蔵脂肪減少効果と抗糖尿病作用を認め、機序として肝、内臓脂肪における脂肪合成系の抑制並びにエネルギー燃焼系の発現亢進を認めた。詳細な機序解明を目指し、組織のマイクロアレイ解析を行った。精巣摘出マウスを高脂肪食にて飼育し、Oil、S42またはDHT(10mg/kgBW)を皮下投与し、16週後、肝臓、内臓脂肪よりtotal RNAを調製し、whole mouse genome oligo DNA arrayによるアレイ解析を行った。興味深いことにエネルギー消費や抗糖尿病作用に関連する現象として、S42はDHTに比して、肝臓、内臓脂肪組織の双方においてカテコラミン合成系酵素の顕著な誘導や糖輸送蛋白のGLUT4の発現誘導を認めた。現在、これの事象に関して、S42の直接効果か臓器へのinnervation等を介する間接効果であるか否かを検討中である。2.血中総テストステロン(TT)値の臨床的意義我々は男性健診受診者249名(平均年齢52.7歳)を対象に種々のアンドロゲン指標のうち、TTが最もメタボ診断との相関性が強く、バイオマーカーとなり得る可能性を報告した(EJ 62:123-32, 2015)。さらに、TTのメタボマーカーとしての意義をアディポネクチンと比較検討した。その結果、血中TT値は、血中アディポネクチン値と有意な正相関の関係にあること、メタボの単独予測因子としては、多変量解析の結果、血中TT値の中央値<4ng/mlは、アディポネクチン中央値の<4.9mg/mlよりも優れた指標であることを見出した(論文準備中)。
2: おおむね順調に進展している
初年度ということもあって、研究を動物実験、ヒト臨床研究を並行して行い、多面的に展開している。平成27年度は、肥満、糖尿病モデルにおける研究の概括的データはほぼ出揃っており、平成28年度中の論文投稿は可能と思われる。また、ヒト臨床研究における検体採取も終了しており、一報の論文とともに、サブ解析により上記成果も出ている。今後も、種々の指標の評価により様々な臨床成果が得られると期待される。前立腺癌における研究もin vitro の系で始めた段階であり、予備的検討ながら、S42による細胞増殖抑制効果を認めており、今後の成果が期待される。
創薬研究であるので、種々の生活習慣病モデルマウス等で、再現性や薬効の違いの有無に関しても十分な検討を行うことが重要と思われる。また、S42の作用機序として、マイクロアレイの解析結果からもアンドロゲン受容体を介した作用のみではないと想定され、新たな標的分子の探索を予定している。人員、器機等、本研究プロジェクトを推進していく上で大きな支障は現時点ではない。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
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