研究課題/領域番号 |
15H04855
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北村 俊雄 東京大学, 医科学研究所, 教授 (20282527)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | MDS / ノックインマウス / 白血病 / 骨髄ストローマ細胞 / ASXL1 / EZH2 / ABC-G2 |
研究実績の概要 |
1)MDSの発症機序の解析 1.複数の遺伝子変異の協調 臨床的にはASXL1変異はMDS患者においてRunx1変異、TET2変異、U2AF1変異などと共存しやすい。この3つの変異遺伝子のうちBMTモデルで協調するRunx1とU2AF1の変異体を変異型ASXL1のノックインマウスの骨髄細胞に導入して移植を行ったところ、それぞれMDS/AML、MDSを早期(5-8ヶ月)で発症した。また、EZH2変異体はABC-G2の脱抑制を介してMDS発症を誘導したが、本年度はABC-G2単独過剰発現でもMDSを発症する分子機構を調べた。ABC-G2を過剰発現した骨髄細胞を移植したマウスでは骨髄細胞由来のエクソソームが骨髄ストローマ細胞に作用し、BMP4の発現低下を介して骨量が減少することが示唆された。 2.白血病移行の分子機構 ASXL1変異とSETBP1変異はAML患者で共存することが多い。SETBP1変異によってSETBP1が安定化しオンコジーンSETが安定化、PP2Aのリン酸化による不活化、PI3K-Aktの活性化が認められることが報告されている。我々のマウスでも変異型ASXL1と変異型SETBP1の組み合わせでPP2A、Aktのリン酸化が認められたが、Aktのリン酸化は変異型ASXL1単独でも認められた。 2)MDS幹細胞の同定 EZH2変異体が誘導するMDSでABC-G2が一部の細胞で発現している。ABC-G2は造血幹細胞のマーカーなので、ABC-G2陽性分画にMDS幹細胞が存在する可能性を考え、ABC-G2陽性、陰性の2つの分画に分けて2次移植をしたところ予想通り陽性分画だけがMDSを再現した。臨床的にもMDSにおいて特異的にABC-G2の発現が高いことが判明した。これらの結果は少なくともMDSの一部の症例においてはABC-G2の過剰発現自体が病因と繋がりがあることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
変異型ASXL1の研究を中心的に行っていた井上大地(助教)が平成27年10月に米国スローンケタリング癌研究所に、変異型EZH2の研究を中心に行っていた川畑(学振特別研究員)が平成28年10月に米国コロンビア大学に、それぞれ留学したため、引き継いだメンバーによる追加実験、論文のリバイスなどに遅れを生じている。その後、研究テーマを引き継いだメンバーも含めて数回にわたり井上及び川畑とスカイプを利用した会議を行うことによって効率的に研究を進め流ことができている。EZH2の論文は2週間以内にリバイスが終了して再投稿できる。また、ASXL1の論文についても一報(ASXL1ノックインマウス)については1ヶ月くらいで投稿できる予定である。ASXL1とSETBP1変異体の組み合わせの研究については、担当の大学院生は在学中であり継続して実験を行えているが、マイクロRNAを狙った実験において予想通りの結果が得られなかったため時間がかかっている。現在ヒストンアセチル化の変化に絞って白血化の分子機構を明らかにしつつある。年内には投稿できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)変異型ASXL1 変異型ASXL1のノックインマウス骨髄細胞にU2AF1変異体あるいはRunx1を導入して照射マウスに移植すると発症するMDS/AMLを解析して、単独では疾患の発症を誘導しない変異型ASXL1に上記の異常が並存することによってMDSあるいはMDS/AMLを発症する分子機序を解析する。特に変異型ASXL1単独やU2AF1単独では減少していく造血幹細胞分画(KSL)を共存によってレスキューすることができるかが重要である。RNAseqによって分子機構の解明を目指す。 2)変異型EZH2 変異型EZH2(C末欠失機能欠失型)を導入した骨髄細胞を移植するとABC-G2の発現上昇を介して長い潜伏期間を経てMDS様疾患の発症を誘導することを昨年度に示した(論文リバイス中)。ABC-G2をノックダウンするとMDS発症が抑制されるかを調べることによって変異型EZH2によるMDS発症においてABC-G2過剰発現がどの程度の寄与をしているのかを確認する。 3)ABC-G2過剰発限 ABC-G2を過剰発現することだけでMDS発症を誘導できる分子機構を解明する。ABC-G2を骨髄細胞や細胞株に過剰発現しても一部の細胞の表面にしかABC-G2の発現が認められない。このことはABC-G2が細胞表面に出るためには副分子が必要である可能性が示唆される。この候補としてRack1が以前に報告されている。Rack1がABC-G2の細胞表面への移行に寄与しているかを調べ、同時にRack1と幹細胞性との関係性を調べる。また、ヒトではABC-G2に対する良い抗体が入手可能であるが、マウスABC-G2に対する良い抗体は我々が試した限りでは存在しない。そこで細胞免疫法を利用して良好なモノクローナル抗体を作成し、ABC-G2と幹細胞性、MDSとの関係性を明らかにする。
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