研究課題
造血幹細胞の機能は、微小環境(ニッチ)からの特異的なシグナルによって、厳格な制御を受けている。細胞周期静止状態は、幹細胞を外的ストレス刺激から保守するために重要な特徴の一つであり、腫瘍化を引き起こす可能性のある遺伝子変異の獲得を回避する手段であるとも、考えられている。我々の造血幹細胞機能制御における理解は、飛躍的な発展を遂げているものの、どのように造血幹細胞の機能を制御しているかは、不明であった。骨髄間質の構造と造血幹細胞の分布をより詳細に解析するために、共焦点顕微鏡を用いた骨髄の3次元イメージング技術を確立した。この新技術は、造血幹細胞とその微小環境(骨髄の血管、間質の構造) との距離の3次元的な解析だけでなく、実際に取得した画像上で、コンピューターシュミレーションを行うことにより、両者間の位置的な関連の有意性の検討までを可能とするものである。申請者らは、この新技術を用いて、骨髄血管は、細動脈と骨髄洞という2種類の血管から成り立っており、それぞれが、造血幹細胞の静止状態の維持(細動脈性ニッチ)、細胞増殖(骨髄洞性ニッチ)という異なる機能を支持していることを世界で初めて明らかにした。造血幹細胞ニッチの構成細胞を同定するための研究は、近年、日本に限らず世界中で、精力的に行われており、前述の研究を初めとした多くの研究結果により、我々の造血幹細胞機能制御における理解は、飛躍的な発展を遂げている。この新たなイメージング技術を用いた3次元的な骨髄構造の理解と、その中での、正確な造血幹細胞の位置の定量、コンピューターシュミレーションによるその有意性の評価は、正常造血幹細胞のみならず、血液腫瘍細胞(白血病)ニッチの同定にも有用であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
(1) 造血を支持する骨髄間質細胞分化の階層化と機能解析間質細胞のlineage-tracingを行い、これらの間質細胞を詳細に分類し、その分化の階層化を試みた。まず初めに、常時発現型NG2-cre/loxp-Tomato/Nes-GFPマウスを樹立し、その骨髄間質の解析をFACSと新イメージング技術を用いて行ったところNG2-cre/loxp-Tomatoにより、骨髄内のほぼ100%のネスチンGFP陽性間質細胞がラベルされ、ネスチンGFP陽性細胞は、NG2-cre発現細胞由来であることが示唆された。更に、定常状態においては、タモキシフェン誘導型NG2-creERTM/loxp-Tomatoの発現は、細動脈周囲に限局しているのに対して、放射線照射4週間後には、骨髄洞周囲にも認められるようになった。タモキシフェン誘導型NG2-creERTM/loxp-Tomatoによるより長期的なlineage-tracingを行うことで、NG2-creERTM及びNG2-creで標識されるストローマ細胞の骨及び骨髄の再生機構における重要性が示された。(2)白血病細胞細胞による造血幹細胞ニッチの機能変化3次元イメージング技術を用いて、マウスMLL-AF9急性白血病モデルでの、正常造血幹細胞の位置変化の解析を行った。MLL-AF9モデルでは、白血病進行期には、正常造血幹細胞数は、約50%減少し、細動脈性ニッチから、離れて分布していた。この結果は、白血病細胞が細動脈性ニッチを占拠もしくは機能的変化に変化させる可能性を示唆している。更に、MLL-AF9モデルにて、NG2陽性細動脈ニッチ細胞とレプチン受容体陽性骨髄洞ニッチ細胞が、形態的に(イメージング)、質的(ニッチ因子の発現、in vitroでの間葉系幹細胞活性)にも、変化しており、白血病ニッチの同定の足がかりになると考えられた。
1週齢と成年期(10週齢)の骨髄ネスチン細胞の比較により、PTEN(phosphatase and tensin homolog)の発現が発達過程で有意に増加することが認められた。PTENが、造血幹細胞において静止状態の維持に重要である。ストローマ細胞の中でも、特に静止状態にある細動脈ニッチ細胞(NG2陽性/ネスチン高発現細胞)特異的にPTENを欠損させ、造血細胞への影響を調べるために、NG2-creERTM/Ptenflox/flox/Nes-GFPトリプルトランスジェニックマウス系統を作成、確立した。成年期マウス(5-7週齢)でタモキシフェンによる遺伝子欠損誘導を開始した。3ヶ月の時点で、末梢、骨髄造血細胞に明らかな変化は認められなかったが、6ヶ月の時点で、末梢血、脾臓における造血幹細胞及び骨髄球系細胞の著明な増加を認めた。更なる病態進行を、調べるためにこのNG2-creERTM/Ptenflox/flox/Nes-GFPマウスを、タモキシフェンの追加投与を行わず、1年の時点で解析を行ったところ、末梢血白血球は、著明に増加し、巨大脾腫を呈し、Gr-1陽性Mac1陽性骨髄球系細胞の有意な増殖を認めた。また、組織学的に、骨髄、脾臓に加え肝臓でも、成熟及び未成熟骨髄球の広範な浸潤を認め、非常に侵襲度の高い(悪性度の高い)病態への進展と考えられた。今後、骨髄球系細胞が、自己増殖能を獲得する過程で、どのような遺伝子変異がどのような病期で出現するかを調べるために、NG2-creERTM/Ptenflox/flox/Nes-GFPとコントロールPtenflox/flox/Nes-GFP マウスの骨髄又は、脾臓、末梢血より造血幹細胞、前駆細胞、骨髄球系細胞を採取し、次世代シーケンサーを用いて、網羅的に解析を行い、現在特定の遺伝子変異の特定を目指している。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件)
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