研究課題
細胞分化のプロセスにおいては転写因子やエピジェネティック制御因子による遺伝子発現制御が極めて重要である。しかし、生体内に微量にしか存在しない造血幹細胞や前駆細胞における全ゲノム規模での解析は未だ限られている。研究代表者らは単球と樹状細胞を含む単核貪食細胞の分化について転写因子IRF8を切り口に解析してきた。本研究課題では我々が開発した微量細胞でのクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)解析法により単核貪食細胞系における転写因子結合とヒストン修飾を全ゲノム規模で同定し、単球・樹状細胞に特徴的な遺伝子発現パターン確立の分子メカニズムの解明を目指す。平成27年度はFACSにより高純度で分離したミエロイド系の前駆細胞(GMP、MDP、cMoP、CDP)と成熟細胞(単球、樹状細胞、好中球)を用いて、エンハンサー関連ヒストン修飾であるH3K4me1と活性化遺伝子発現制御領域に蓄積するH3K27ac、そしてプロモーターにおける転写開始のマークであるH3K4me3のChIP-seqデータの取得を行った。また転写因子PU.1のChIP-seqデータについても取得することができた。これによって上記7つの細胞集団におけるエンハンサー領域を同定し、分化に伴うその動態をバイオインフォマティクス解析した。その結果、単球や樹状細胞のエンハンサーは、遺伝子発現が起こる前に前駆細胞段階から徐々に準備されていることがわかった。また各分化段階で新たに形成されたエンハンサー領域においてはPU.1の結合が増加することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は7種類の細胞(GMP、MDP、cMoP、CDP、単球、樹状細胞、好中球)におけるH3K4me1、H3K4me3、H3K27acのChIP-seqデータを取得することが第一の目標であり、これは完全に達成することができた。このデータをもとに単球・樹状細胞のエンハンサーランドスケープの解読を行い、エンハンサー形成と遺伝子発現の関係性を明らかにすることができた。また転写因子PU.1とIRF8のChIP-seqも行い、PU.1に関しては質の高いデータを取得することができた。IRF8はGMP、MDP、cMoPでのChIP-seqデータを取得することができたが、その実験条件ではCDP、単球、樹状細胞でのChIPが成功しないことがわかった。
1. 単核貪食細胞系の分化におけるエピジェネティックランドスケープの解読単球と樹状細胞に特徴的な遺伝子発現パターンが確立されていく過程を、前駆細胞段階からの転写因子によるエンハンサー制御の観点から明らかにしていく。例えばエンハンサーのプライミングにどのような転写因子が関与するのかをDNAモチーフ解析で予測し、その転写因子のノックアウトマウスやノックダウン等の手法を用いて、その役割を検証・解析する。また、スーパーエンハンサーに着目した解析も進める。2. 単球と樹状細胞における転写因子のChIP-seq解析マウス生体内組織からFACSを用いて精製した単球と樹状細胞では、IRF8のChIP-seqを行なってもほとんどピークが得られないことがわかった。これはおそらく細胞種によってはFACSによる分離の過程で転写因子とクロマチンの結合が傷害されるからではないかと推測している。そこで細胞への傷害がより少ない分離方法(MACSなど)によって分離した細胞を用いてIRF8等の転写因子のChIP-seqを試みる。3. 更なる分子メカニズムの解明転写因子が形成する複合体の精製と質量分析は、これまでの予備検討によって難易度が高いことがわかりつつあるが、条件検討をさらに行なう。これによって転写因子がエピゲノムを制御するメカニズムの理解を試みる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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