研究課題
これまでの解析からGMP,MDP,cMoP,CDP,単球,CD8陽性樹状細胞,好中球におけるエンハンサーやプロモーターに関係するヒストン修飾(H3K4me1,H3K27ac,H3K4me3)と転写因子PU.1の免疫沈降シークエンス(ChIP-seq)解析を完了した。さらにバイオインフォマティクス解析により単球や樹状細胞のエンハンサーは前駆細胞段階から徐々にプライミング・活性化されることがわかった。本年度は単球や樹状細胞のエンハンサー形成の仕組みをさらに詳細に解析した。その結果,単核貪食細胞系前駆細胞で新たに形成されるエンハンサーには転写因子IRF8のDNA結合配列が有意に存在することがわかった。IRF8のエンハンサー制御における役割を調べるためにIRF8欠損マウスからGMP,MDP,cMoPを単離し(IRF8欠損マウスにはCDP,単球,CD8陽性樹状細胞はほとんど存在しない),H3K4me1とH3K27acのChIP-seqとマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。IRF8欠損マウス由来前駆細胞の遺伝子発現パターンは野生型と大きな変化はなかったが,IRF8欠損マウス由来前駆細胞のH3K4me1の分布は野生型と大きく異なっており,すべて野生型のGMPに近いパターンを示した。この結果はIRF8はGMPからMDPさらにcMoPへのエンハンサーの形成に重要であることを示している。さらに野生型のMDPとcMoPにおけるIRF8の結合部位ではH3K4me1やH3K27acが有意に濃縮していたが,IRF8欠損マウスのMDPやcMoPではそれらが著しく減少していた。これらの結果はIRF8がその結合部位において直接エンハンサープライミングと活性化を促進することを示す。さらにIRF8による単球・樹状細胞分化制御機構を調べるために単球と樹状細胞を単離してIRF8のChIP-seqを行った。分離方法と固定方法を工夫することで樹状細胞に関しては質の高いChIP-seqデータを得ることができたが,単球に関しては様々な方法を試したが十分なデータを得ることはできなかった。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度はIRF8欠損マウスの単核貪食細胞前駆細胞を単離してエンハンサー関連ヒストン修飾(H3K4me1,H3K27ac)のChIP-seqを行い,さらにバイオインフォマティクス解析により単核貪食細胞系エンハンサー形成(スーパーエンハンサーを含む)にIRF8が必須であること示すことができた。この結果は単球・樹状細胞分化機構を理解する上で非常に重要な知見である。また樹状細胞におけるIRF8のChIP-seqにも成功し質の高いデータを得ることができた。
(1)単核貪食細胞系の分化を制御する新たな制御因子の同定IRF8によって制御されるエンハンサー近傍の遺伝子には単球や樹状細胞の分化を制御する未知の転写因子が含まれている可能性が高い。そこでIRF8に制御されるエンハンサーを詳しく調べるためにクラスター解析を行う。そして各クラスターのうちIRF8により制御されるエンハンサーを選び出し,どのような転写因子遺伝子が存在するか解析する。最終的にそれら転写因子のノックダウンあるいはノックアウトマウスの解析を行い,単球や樹状細胞の分化への影響を調べる。(2)Irf8遺伝子の発現制御機構の解明本研究からIrf8遺伝子の近傍に複数のエンハンサー候補領域が存在することがわかってきた。そこで我々が所有する樹状細胞前駆細胞株を用いてCRISPR-Cas9システムによるエンハンサー領域のノックアウトを行い,Irf8遺伝子発現に影響を与える領域を同定する。また転写因子結合モチーフ解析を行いIrf8の発現制御に関わる転写因子を予測する。(3)IRF8を最も早期に発現する前駆細胞の同定単球や樹状細胞の分化機構を理解するために,我々が所有するIRF8-GFPキメラノックインマウスを用いてどの前駆細胞段階からIRF8が発現し始めるのか解析する。そして最も早期にIRF8を発現する前駆細胞がどのような分化能を有するか検討し,さらにそれら前駆細胞の活性化遺伝子発現制御領域を同定するためにATAC-seqを行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~immunol/