研究課題
本研究は、近年カナダのバンクーバー島でアウトブレイクが発生し、米国太平洋沿岸地域に拡大しつつあるCryptococcus gattiiによるクリプトコックス症の高病原性の免疫機序を解明することを目的にしている。我々が開発したクリプトコックス抗原特異的T細胞受容体(TCR)を高発現するトランスジェニック(Tg)マウス(CnT-II)と、ovalbumin(OVA)遺伝子を導入したC. gattii(OVA-C. gattii)、C. neoformans(OVA-C. neoformans)及び、OVA特異的TCRを高発現したTgマウス(OT-II)を用いることで、両真菌種に対する免疫応答性の相違について比較検討した。CnT-IIマウスの肺内にこれらの真菌を感染させたところ、C. gattii感染ではC. neoformansに比べTh1免疫応答が顕著に低下しており、肺における菌排除の遅延が観察された。病理学的解析では、C. neoformans感染で肉芽腫形成を伴う炎症像が観察されたのに対し、C. gattii感染ではそのような反応がほとんど観察されなかった。OT-IIマウスを用いた解析では、OVA-C. neoformans感染によって肺内でTh1免疫応答がみられ、OVA特異的TCRを発現したT細胞にIFN-γの発現が検出された。また、OT-IIマウス由来の脾細胞をOVAの抗原エピトープペプチドで刺激する際に両真菌種由来のDNAを添加したところ、C. gattii由来のDNAで有意なTh1応答の低下が観察された。これらの結果から、C. gattiiではTh1免疫応答の低下により感染が悪化し、PAMPsとしてのDNAが何らかの関与を示す可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2種類のトランスジェニックマウスを用いたin vivoの実験で、当初予定していた高病原性クリプトコックス感染の免疫病態の一端に迫ることができ、その機序の可能性を示唆する知見も得られつつある。
平成27年度に得られた知見をもとに、病原性クリプトコックス感染でTh1応答が低下し感染が悪化する免疫機序について、トランスジェニックマウスの利点を活かし、特にin vitroでの各種T細胞サブセットへの分化に及ぼす影響に焦点を当てることでさらなる解析を進めたい。
すべて 2015 その他
すべて 学会発表 (5件) 備考 (1件)
http://www.infect-immun.med.tohoku.ac.jp/