研究課題/領域番号 |
15H04869
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉田 昌彦 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (80333532)
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研究分担者 |
中村 孝司 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (20604458)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感染症 / 細菌 / 結核 / 脂質 / ワクチン |
研究実績の概要 |
抗結核脂質ワクチンの第一候補であるグルコースモノミコール酸について、その生合成と免疫認識ならびに特異的T細胞応答の質についての探究を進めた。まずグルコースモノミコール酸合成酵素リコンビナントタンパク質と基質であるグルコースの複合体を調製し、共結晶化したのち、X線結晶構造解析を行った。その結果、グルコース基質が酵素活性中心とは別のアクセプター部位に結合するという従来の想定(J Biol Chem. 2008; 283:28835-41)とは異なり、水素結合ネットワークを介して酵素活性中心に直接的に結合することが明らかとなった。とりわけ6位の水酸基を介した結合は極めて重要であり、グルコースモノミコール酸合成反応は6デオキシDグルコースによる阻害を受けないことを確認した。一方、グルコースモノミコール酸の産生しない抗酸菌を調製し、それをモルモットに感染させると、インターフェロンガンマの産生を伴うグルコースモノミコール酸特異的T細胞応答が誘起されることを、ex vivo のリアルタイムPCRおよび組織の遅延型アレルギー応答を指標に実証した。このことから抗酸菌が宿主体内に多量に存在するグルコースを基質としてグルコースモノミコール酸を産生する可能性を考え、マススペクトロメトリー等の解析手法によりその検出を試みたが、感度の制約から明快な結論は得られなかった。そこで、次年度の解析に備え、グルコースモノミコール酸特異的T細胞の数や質をリアルタイムで検出すべく、アカゲザルおよびモルモットCD1テトラマーの整備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗結核脂質ワクチンの第一候補であるグルコースモノミコール酸について、その生合成の分子機構を明らかにすることが今後の研究展開に重要な洞察を与えると考え、グルコースモノミコール酸合成酵素とグルコース基質の複合体のX線結晶構造を世界に先駆けて解明したことは大きな進展である。またグルコース非産生抗酸菌が、感染に伴ってグルコースモノミコール酸を宿主体内で合成し、その結果としてグルコースモノミコール酸特異的T細胞応答が誘起されることを、in vivo および ex vivo の系で明快に実証したことも、本研究の基盤知見として重要である。前年度の成果も含め、アカゲザルおよびモルモットにおいて、グルコースモノミコール酸特異的T細胞応答を誘起できるワクチンフォーミュラ(アジュバントを含む)の原型を確立できたことも、進展と言える。学術的には抗酸菌が感染組織内でグルコースモノミコール酸を産生することを、免疫学的手法とは別に、マススペクトロメトリー等の手法で直接的に証明したかったが、産生量が必ずしも多くなく、検出感度に至らなかった。この点はさらなる工夫、改善の余地を残した。
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今後の研究の推進方策 |
抗結核脂質ワクチンの開発に向けて、アカゲザルおよびモルモットを用いた評価系はほぼ確立できているが、CD1テトラマーの確立が遅れているので、これを完遂する。また脂質ワクチンを搭載したリポソームフォーミュラについて、効率や安全性の観点からアジュバントの多少の改変の余地があり、これを進める。とりわけ、新たな霊長類自然免疫受容体リガンドとして同定したグリセロールモノミコール酸の生物活性の検証とアジュバントとしての利用を図る。一方、結核制御には肉芽腫の形成機序の理解が不可欠である。ヒトおよびモルモット結核病変を対象とした過去2年間の研究から、肉芽腫形成の鍵となる好中球由来因子としてS100A9分子を同定した。しかしS100A9分子がどのように肉芽腫構築に貢献するのか、その機序は不明のままである。そこで、好中球特異的にS100A9遺伝子を破壊したコンディショナルノックアウトマウスを樹立し、その解析を進める。最後にこれらの成果を統合することにより、抗結核脂質ワクチン開発の基盤を確立し、その実現に向けた新戦略を構築、提唱する。
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