研究課題/領域番号 |
15H04870
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
松下 修三 熊本大学, エイズ学研究センター, 教授 (00199788)
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研究分担者 |
佐藤 賢文 熊本大学, エイズ学研究センター, 教授 (70402807)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感染症 / 内科 / ウイルス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、HIV-1感染症の「治癒に向けた治療法」開発の標的である「HIV持続感染細胞」の解析である。抗ウイルス療法(ART: antiretroviral therapy)の進歩により、HIV-1感染症の予後は著名に改善したが、現在の治療法ではウイルスを排除できず、治療は一生継続されなければならない。ART下に残存するウイルス関しては、proviral DNA (pDNA)の動態とHIV-1の組み込み部位に関連した持続感染細胞増殖の病態研究が重要である。これらの研究により、pDNAのレベルにかかわる宿主因子の同定、in vivoにおけるウイルス潜伏のメカニズム、ART下におけるpDNAのHIV感染病態への関与、さらに、残存ウイルスの排除に向けた治療法の開発に結び付く。我々は、1996年からARTを開始している症例をはじめとして、長期にわたりART治療を行っている症例(50例)の末梢血単核球検体からDNAを抽出した。およそ1~2年に1回のサンプリングした約500検体についてSYBER Green qPCRを用いgag部分を増幅、これをAlbのDNA量で標準化して比較した。ART治療下におけるpDNAの動態には、症例によっていくつかのパターンがあることが推測された。この研究内容は2015年フロリダで開催された7th International Workshop “HIV Persistence during Therapy”にて発表し、現在、臨床データとの相関を検討し、投稿準備中である。一方、長期にわたりART治療を受けているHIV-1感染症例12症例に関して、末梢血単核球の経時的検体の、ウイルス組み込み部位を決定し、感染クローン動態解析を進めている。これらのデータの一部は国内学会にて発表した。現在、1610カ所の組み込み部位を特定し、さらに解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長期間ARTによってウイルスが抑制されている症例をリクルートし、説明と同意の後に採血し、末梢血単核球(PBMC)を得る。本臨床研究に関しては、熊本大学生命科学研究部ヒトゲノム遺伝子解析倫理審査委員会で承認済みの説明と同意書を用いて同意をとった(ゲノム第248号)。7~19年の長期にわたりART治療を行っている症例(50例)の末梢血単核球検体からDNAを抽出した。およそ1~2年に1回サンプリングされている約500検体についてSYBER Green qPCRを用いgag部分を増幅、これをqPCR によって定量したAlbのDNA量で標準化して比較した。ART治療下におけるpDNAの動態には、症例によっていくつかのパターンがあることが推測された。現在、臨床データとの相関を検討し投稿準備中である。一方、長期にわたりART治療を受けているHIV-1感染症例12症例に関して、経時的検体の、ウイルス組み込み部位を決定し、感染クローン動態解析を進めている。組み込み部位に関連した持続感染細胞のクローン性増殖は、多くの検体で認められたが、長期治療の影響を調べるために、治療開始前(または開始後早期)と長期治療後の組み込み部位を比較する研究を行っている。症例1ではクローン性増殖が43.7%から40.6%と変わらず、また最もドミナントなクローンの割合も10.4%から12%とほぼ不変であった。しかし、症例2では、クローン性増殖が、22.6%から72.6%まで増加し、ドミナントクローンも16.5%から24.8%まで増加していた。現在まで、1610カ所の組み込み部位を特定し、感染細胞のクローン性増殖を検出してきたが、pDNAの絶対量が少ない場合の感度が十分でないなどの課題も明らかとなった。これまで確立できた方法でさらに検体数を増やすとともに、感度を改良した方法に関して検討を加えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降も現在の研究を継続する。pDNAの定量と残存ウイルス量の分布の検討に関して、平成28年度までに得られたデータに基づき、同じ組み込み部位の感染細胞が、どのようなメカニズムで残存するのか、pDNAが高い症例と低い症例では、残存ウイルスの組み込み部位に違いがあるのかなどの検討を行う。初めは、特にpDNAが高いレベルで推移している症例に焦点を当てて研究を展開するが、長期治療症例ではpDNA量が減少した例が多いため、検出感度を高め、pDNA量の減少が認められる症例に関しても詳細な検討ができるようにデジタルPCR法の条件決めなどを行う。新たにT-細胞サブセットの残存HIV-RNAとプロウイルスの定量を行う。最近、Ishizaka らは、ART治療下にある症例に、prematurely terminated short HIV-1 transcripts (STs)を同定し、慢性的な免疫活性化と相関することを報告した(Ishizaka A. et al., J.Virol., in press 2016)。残存ウイルスによる、このような転写産物の同定は重要であり、本論文を参考にして、我々の長期治療症例に関しても検出可能かどうか調べる。次世代シークエンシング(NGS)を用いたHIV組み込み部位解析に関しては、28年度までに確立した条件によって、29年度以降は多くの検体の処理を行う予定であるが、pDNAが有意に減少した症例に関して、高感度に組み込み部位を調べるには、現在の方法に加えて、技術的な工夫が必要と考えられる。長期にわたる臨床サンプルが利用可能な症例では、特異的primerを設計して特定の組み込み部位に組み込まれているウイルスの頻度を調べることが可能であり、HIVの組み込み部位と臨床経過や病態との関連を明らかにできる。
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