研究実績の概要 |
我が国では、妊孕世代女性の栄養摂取不足が問題となっている。我々の研究グループは、浜松市妊婦の食事調査を行い、妊娠期間を通じての平均エネルギー摂取量は1,600キロカロリーであり、妊娠後期には厚生労働省の推奨値より37%低く、我が国の胎児の多くが比較的低栄養環境に曝されている可能性に警鐘を鳴らした。諸家の疫学研究から、胎生期に低栄養環境に曝されると、成長後に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を発症するハイリスクとなることが報告されている。我々はその具体的なメカニズムの解明と、治療的介入戦略への探索を研究の目的とした。 妊娠マウスに摂餌制限を行うことで、産生仔が成長後に肝脂肪変性が増悪する動物モデルを調整し、1)肝脂肪変性の増悪とともに肝臓マクロファージの浸潤による慢性炎症が進行すること、2)肝脂肪変性の増悪とともに小胞体ストレスの亢進によりおりたたみ不良たんぱく質が蓄積すること、3)産生仔の肝脂肪変性が増悪した後であっても、シャペロンの経口投与によって小胞体ストレスを軽減することで肝脂肪変性は劇的に改善することを明らかにた(Sci Rep. 5, 16867, 2015)。さらに、胎生期の低栄養による肝脂肪変性の増悪ならびにシャペロン投与による劇的改善は、クロマチン構造の変容による遺伝子発現の調節によって行われることを解明し、現在論文投稿準備中である。丸剤までの研究成果により、胎生期に低栄養環境に曝された場合に、NAFLDに罹患するハイリスク因子となる具体的否メカニズムの一端が解明するとともに、天然シャペロンを含んだ食生活の指導やサプリメントの開発など具体的な治療、介入戦略を探索する手がかりが明らかとなった。
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