研究課題
弘前大学で収集した被験者から得られたゲノムDNAを用いて、CNV解析を行ない、ゲノムDNAの重複及び欠損を探索した。従来の方法では、健常者にはCNVはないものとして仮定して、ASDまたはADHD患者に特徴的なCNVを探索する方法がとられていたが、本研究では、健常者で見られるCNV領域がASDやADHDではCNVが見られない領域も探索した。また、従来はPennCNVを用いていたが、統計学的な解析に弱いという点から、検出力及び統計学的解析に長けたPartek Genomics Suiteも用いて解析を行なった。客観的な診断方法が確立されていないことから、CNV解析による診断アルゴリズムを構築できないかを検討した。Fisher検定及びカイ二乗検定を用いて、健常者において有意に多いCNV領域を(-)、ASDやADHD患者で有意に多いCNV領域を(+)と定義し、個々の被験者に該当箇所がある場合、1箇所につきそれぞれ-1、+1とし、その和をスコア化し照合分析を行なった。その結果、感度+特異度が最大になるスコアは、ASD群では+2で感度0.89, 特異度0.92、正診度0.92、ASD-ADHD合併型群では+1でそれぞれ0.79, 0.94, 0.91, ADHD群では±0で0.87, 0.82, 0.84となった。この結果より、ASDやADHDはCNV解析による診断アルゴリズムの構築ができる可能性が示され、客観的な診断基準になりうると推定できる。従来のCNV解析では前述の通り、健常者ではCNV領域がないという前提で行われており、健常者で有意に多く見られるCNV領域が、疾患群では見られない、という条件が見落とされてきた。そのため、CNV解析による診断アルゴリズムの構築が不可能であったが、今回我々が採用した方法は、診断アルゴリズムの構築に一役買う結果が得られたのではないかと考えている。
2: おおむね順調に進展している
現在までに256名の被験者 (うちASD-ADHD合併症型32名)からゲノムDNAや血清、血漿を収集しており、CNV解析の他に、生化学的な解析も行なっており、ASDやADHDの病態解析を行なっている。IGF-1、VLDL-Cho、VLDL-TG値はASD及びADHDと有意な相関があり、診断バイオマーカーとしての可能性が示唆された。現在、ADI-RやADOS、Conners3などの診断ツールの結果と照合し、1.コミュニケーション障害型ASD群、2.反復行動型ASD群、3.ASD-ADHD合併型に分類し、CNV解析の結果とどのような関連性が見出されるかを検討している。それぞれの診断基準としては、ADI-RのA項目の「相互的対人関係の質的異常」の総合点が優位な者を1型、C項目の「限定的・反復的・常同的行動様式」の総合点が優位な者を2型とする。さらに、ASD群の中からADHD診断ツールであるConners3を用いて、ADHDの診断がついた者を3型として分類する。この分類をした場合に、特徴的なCNV領域が見られる場合、我々が考えるASDの2ヒットモデルを立証することが可能であると考えられる。また、従来のASDに関する研究は主に欧米人を中心としており、我々は欧米型ASDとアジア型ASDとの違いを明らかにすることも目的としている。この違いを明らかにするため、Autism Sequencing Consortiumに蓄積されているデータへのアクセスも行ない、我々が行なったCNV解析の結果との照合分析も行なっている。
ASDを3つのタイプに分けると、それぞれのタイプにおいて被験者数が少なくなるため、計画していた500サンプルを今年度から来年度にかけて収集し、解析する予定である。また、CNV解析において、コピー数変異が認められた領域について、qPCR法でvalidateし、確実に変異が起きていることを確認する。この際、通常のqPCR法ではコピー数変異の微妙な差が見つけづらいことから、Taqman法による定量を行なう。これにより2ヒットモデルの1ヒット目を確実に見つけ出す。また、exome sequencingを行なうことで、親から継代しないde noveの新規変異を見つける。それによって、3つのASDタイプを比較し、発症に寄与する中心的な変異を見い出す。また、欧米型ASDとアジア型ASDを比較し、各々の遺伝学的な違いを明確にし、アジア型ASDの遺伝学的な特徴を明らかにする。ASDに関する多くの遺伝学的研究では、欧米型ASDが中心であり、アジア人を中心とした解析はされていないことから、これらを明らかにすることで、アジア型ASDに対する有効な治療法・療育法の開発につなげることが期待できる。
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