研究課題/領域番号 |
15H04895
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
渡辺 義文 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90182964)
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研究分担者 |
内田 周作 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (10403669)
山形 弘隆 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (10549934)
樋口 文宏 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60711249)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ストレス / 遺伝子発現 / うつ病 |
研究実績の概要 |
我々の先行研究結果から、「側坐核・海馬・内側前頭前野皮質における神経回路の変容に伴うエピジェネティックな遺伝子発現異常がうつ病の発症機序となる」との仮説をたて、その妥当性を分子・神経回路レベルで検証する。 平成28年度に得られた成果は以下の通りである。 1.前年度までに、(1)慢性ストレス負荷マウス海馬におけるCaMKIIbetaの発現量低下、(2)海馬特異的にCaMKIIbeta発現をノックダウン可能なアデノ随伴ウイルス(AAV)およびCaMKIIbetaを過剰発現させるAAVを投与したマウスにおいて、それぞれストレス脆弱性、ストレス耐性が認められたことを発見した。本年度は、ストレスによるCaMKIIbeta発現低下の原因をエピジェネティクスの観点から検討した。その結果、ストレス負荷は海馬におけるcamk2b遺伝子上のDNAメチル化(5-hydroxymethylation)を低下させること、ならびにその原因としてDNA脱メチル化酵素TETの発現・機能異常によるもであることを突き止めた。 2. 前年度までに、内側前頭前野皮質特異的にHDAC4をノックダウンしたマウスはうつ様行動の減少を、非リン酸化型HDAC4の過剰発現はストレス脆弱性を高めることを見出した。本年度はHDAC4の標的遺伝子の同定を試みた。非リン酸化型HDAC 4過剰発現マウスを用いてうつ病と関連する遺伝子群の発現をリアルタイムPCR法により検討したところ、GDNF遺伝子の有意な発現低下を認め、また、クロマチン免疫沈降法によりHDAC4はGdnf遺伝子上にリクルートされていることを確認した。 3. 神経ネットワーク解析として、海馬-側坐核パスウェイをM3q-DREADDで活性化したマウスはストレス耐性を獲得することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子基盤解析と神経基盤解析の両アプローチにおいて、当初計画した実験を遂行することができた。また、camk2b発現メカニズムをエピジェネティクスの点から明らかにでき、HDAC4の標的遺伝子同定に成功し、さらにストレスレジリエンスに関わる神経ネットワークを同定することができた。これらの成果は当該年度の目標であり、研究は予定通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1. 内側前頭前野皮質―側坐核ネットワーク変容に伴ううつ様行動の評価 平成27年度に作製した神経細胞を活性化させるhM3Dqあるいは抑制させるKORDを内側前頭前野に過剰発現させたマウスを作製する。これらマウスに外来タンパク質を刺激する薬剤(CNO)を投与し、内側前頭前野で薬剤誘導的に神経活動を活性化・あるいは不活性化させる。その後、マウスのうつ様行動を評価する。 2. うつ病における神経回路ネットワーク変容とエピジェネティクス異常 内側前頭前野皮質および海馬における神経活動の変容に伴い、それらの投射先である側坐核において、エピジェネティックな変化が認められるかについて検討を行う。さらに、HDAC4やCaMKIIbetaの機能異常によっても側坐核におけるエピジェネティクス制御に影響がみられるかを検討する。 3. 内側前頭前野をDREADD法にて不活性化させた場合および、恒常的活性化型HDAC4を過剰発現させた場合の側坐核におけるエピジェネティックな変化を抽出する。海馬をDREADD法にて不活性化させた場合および、CaMKIIbetaをノックダウンさせた場合の側坐核におけるエピジェネティックな変化(ヒストンアセチル化レベル)を検討する。
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