研究課題
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、転移性、浸潤性の難治性がんや再発がんにも有効な治療法として期待される次世代の粒子線治療法である。日本が世界の研究をリードしている数少ない医療分野の一つでもある。本研究では、がん幹細胞に対し高い細胞内導入効率をもち、実用化に適した製造コストを実現できる新しいホウ素製剤の開発を目指す。さらに、ホウ素剤の体内薬物動態やがん細胞内集積の様子をリアルタイムでモニターできる分子イメージング試薬を作成する。作製したホウ素試薬を用いて中性子照射を行い、その治療効果を実証する。また腫瘍モデル動物にて分子イメージングが可能な事を実証する。予想される成果が得られれば、「BNCTによるがん治療の実用化」に向け大きな前進となる。医学の最重要課題の一つ、転移性・浸潤性の難治性がんに対するBNCT法の早期実現に貢献することが、学術的な特色である。アミノ酸のアナログであるBPAを使ったホウ素剤の開発は国内外で行われているが、一方細胞内への取り込み機構のないBSHについてはリポソームを利用する方法はあるものの開発は遅れている。BSHの様な大きな結晶体(ホウ素12個からなる)を、直接細胞内に高効率・高濃度に導入する技術は、我々の開発したポリアルギニンによる細胞内導入シグナル技術の独壇場であり、本研究は極めて独創的である。臨床応用を視野に入れ、敢えてシンプルで製造し易い構造にしてコストを実用の範囲に入れようとする意欲的な試みでもある。しかも、治療抵抗性や再発の本体と考えられているがん幹細胞を標的化し、BNCTによってその根絶を目指す試みは、他に類を見ない独創的な試みである。この成果はホウ素導入だけでなく、抗ガン剤導入やがん幹細胞に対する遺伝子治療等にも応用が可能であり、本研究の成果は非常に広い波及効果を持つと期待される。
2: おおむね順調に進展している
我々が開発し、特許化したアルギニン11個からなる細胞内導入シグナル11Rを3(5or 7)個に短縮したシグナル分子を、ホウ素剤BSHと結合したmono BSH-3(5、7)Rを作成した。本薬剤開発の成功は、今後の臨床応用を念頭に置いた場合、その意義は極めて大きい。薬剤の担癌モデルの尾静脈投与により、脳腫瘍部に特異的に薬剤の高い集積が確認された。今後、予定通り、脳腫瘍のがん幹細胞マーカー蛋白質CD133に特異的に結合するペプチドをハイスループットアッセイでスクリーニング検出し、これをmono BSH-3(5、7)Rに結合させる。このようにして作製したホウ素製剤によって、癌幹細胞内への特異的なホウ素導入を実現する予定である。また、さらにmono BSH-3(5、7)Rに陽イオンキレータを結合させ、さらに64Cu同位体を結合させ、分子イメージング試薬として機能する事を今後証明する予定である。
開発ホウ素試薬を投与したモデルマウスでの中性子線照射実験(担当:松井・道上・大学院生3名)中性子照射は、京都大学原子炉実験所で行う(保安教育受講済み、使用許可有り)。神経膠芽腫細胞あるいは脳腫瘍がん幹細胞の脳内接種によって作成した脳腫瘍モデルマウスの作成には既に成功している。さらに担癌モデルマウスにおけるBSH剤のPET分子イメージングのデータに基づき、動物に対して最適な条件でBSHペプチド剤を投与する。次に、担癌脳腫瘍モデルマウスに中性子照射を行う。治療後の生存期間中央値やカプランマイヤー生存曲線によりBNCTの治療効果を示す。さらに、腫瘍部および正常部の形態学的変化、腫瘍の縮小・消失状況などについて組織学的解析を行う。研究体制:主たる研究は岡山大学・医学部で行う。近畿大学理工学部、岡山大学・工学部、京都大学原子炉実験所、大阪医科大学とは協力して実施する。ペプチドの合成は岡山大学・工学部・生体機能情報設計学で行い、BSHペプチド大量合成は神戸天然物化学株式会社に委託する。本チームは定期的に会議を行い、安全が確保された学内サーバー上で情報共有するなど密な情報交換を行い、効率的に研究を推進する。
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Sci Rep
巻: 18;6 ページ: 23372
10.1038/srep23372