研究課題/領域番号 |
15H04913
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所) |
研究代表者 |
手島 昭樹 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 放射線治療科, 主任部長 (40136049)
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研究分担者 |
高橋 秀典 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 消化器外科, 副部長 (90601120)
井岡 達也 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 消化器検診科, 副部長 (70501815)
冨田 裕彦 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 病理・細胞診断科, 主任部長 (60263266)
小西 浩司 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 放射線治療科, 医長 (60457017)
上田 悦弘 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 放射線治療科, 技術吏員 (80643486)
出水 祐介 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員准教授 (50452496)
佐藤 克俊 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, 研究員 (20589650)
沼崎 穂高 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70403011)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射線治療学 / 膵臓癌 / 術前化学放射線療法 / IMRT |
研究実績の概要 |
本研究は、膵癌術前化学放射線療法に強度変調放射線治療(IMRT : Intensity Modulated Radiation Therapy) を本格導入する為、物理工学的指標に始まり、生物・基礎生物学的指標までデータベース化することでIMRTのdose paintingを確立し、世界初の本格的検証を開始することが目的である。 物理学的なアプローチとしては、複数回治療計画CTを撮影した症例を用いて、膵臓癌術前放射線治療のターゲットとなる腹腔動脈(celiac artery:CeA)および上腸管脈動脈(superior mesenteric artery:SMA)に対する線量を担保するために必要な照射領域を評価した。その結果、照射領域は、CeAより大きな領域となることが明らかになった。また、従来の放射線治療法による固定多門法で治療を行った場合の隣接する危険臓器である胃および十二指腸の照射線量を評価した。胃の最大線量(以下、Dmax)と2ccの体積に投与される線量(以下、D2cc)、および十二指腸のDmax、D2ccの変化率を求めた。Dmaxは両者において大阪府立成人病センターの線量指標である57 Gyを上回る例がみられたが、D2ccについては線量指標の55 Gyを超えるものはないことが分かった。 生物学的アプローチとしては、アルブミン懸濁型パクリタキセル(アブラキサン)及びFORFILINOX療法と放射線との併用療法をin vitroにて評価するための実験系について解析、検討し、各薬剤の使用濃度を最適化した。ヒト膵がん細胞MIAPaca-2及びPANC1を用いてFORFILINOX(5-フルオロウラシル(5-FU)、レボホリナートカルシウム、イリノテカン及びオキサリプラチンの混合剤)及びアブラキサンの細胞増殖抑制効果を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数回治療計画CTを撮影した症例(visicoil刺入例11例/同時期膵癌術前化学放射線治療例87例)を用い膵臓癌術前放射線治療のターゲットとなる腹腔動脈(celiac artery:CeA)と上腸管脈動脈(superior mesenteric artery:SMA)に対する線量を担保するために必要な照射領域を評価した。CeAの変動は左右、腹背、頭尾方向で0.33±1.86mm、0.92±1.36mm、1.61±1.89mm、最大の変動はそれぞれ5.2mm、3.7mm、5.7mmであった。照射領域はそれぞれ2.90mm、2.77mm、1.05mmが必要である。SMAの変動はそれぞれ0.01±3.28mm、0.07±2.13mm、0.20±1.64mm、最大の変動は9.4mm、6.1mm、3.3mmであった。照射領域はそれぞれ6.93mm、4.50mm、3.58mmが必要であり、CeAより大きな領域となることが明らかになった。 従来の放射線治療法による固定多門法で治療を行った場合の隣接する危険臓器である胃および十二指腸の照射線量も評価した。胃の最大線量(以下、Dmax)と2ccの体積に投与される線量(以下、D2cc)、及び十二指腸のDmax、D2ccの変化率を求めた。それぞれ2.60±13.6%、8.20±17.1%、0.30±3.57%、-0.62±3.45%であり、最大の変化率は20.2%、28.0%、8.10%、6.67%であった。Dmaxは両者において当院の線量指標である57Gyを上回る例がみられたが、D2ccについては線量指標の55Gyを超えるものはなかった。 アルブミン懸濁型パクリタキセル(アブラキサン)及びFORFILINOX療法と放射線との併用療法をin vitroにて評価するための実験系について解析、検討し、各薬剤の使用濃度を最適化した。ヒト膵がん細胞MIAPaca-2及びPANC1を用いてFORFILINOX(5-フルオロウラシル(5-FU)、レボホリナートカルシウム、イリノテカン及びオキサリプラチンの混合剤)及びアブラキサンの細胞増殖抑制効果を評価した結果、in vitroにて放射線照射と併用する場合FORFILINOX、アブラキサンはそれぞれ100nM、3nMが最適であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
物理工学的アプローチ 1.IMRT治療計画の立案: CeA、SMAの照射領域の照射領域を考慮に入れたIMRT治療計画を立案し、危険臓器に対する照射線量を複数回CTで再評価することでIMRT治療計画の線量制約の決定を図る。2.呼吸同期法の検討:hybrid法を用いた主腫瘍に対するboost照射は照射野が小さい。また1回あたりの照射線量も低く、monitor unit(MU)も小さくなる。同期照射による小照射野と低MUの線量検証を行うことで、boost照射の物理的安定を評価する。3.hybrid法のAngle optimizationの確立:boost照射のbeam angleによっては、IMRTによって低下させた危険臓器に対する線量の増加が考えられる。そこでIMRT線量を鑑みたAngle optimization法をBeam angle optimizerを用いて確立する。 基礎生物学的アプローチ 1.がん転移能抑制に有効な薬剤濃度の確立:前年度、膵癌細胞MIAPca2とPANC1に対して、薬剤の殺細胞効果の最適薬剤濃度を決定した。本年度では、膵癌細胞AsPC-1を新たに加えて、3種類の膵癌細胞に対して前年度に得られた薬剤濃度を基に、がん浸潤能、転移能を評価し、最もがん転移抑制に効果的な薬剤濃度を決定する。さらに決定した濃度の薬剤と放射線の併用により殺細胞効果と転移抑制効果に最適な組み合わせを決定する。2.動物実験:膵癌細胞AsPC-1をBalb/c nude miceに皮下注射し、異種移植片を作成する。本実験では、in vitroにて照射後のがん細胞を移植する方法と腫瘍形成後にin vivoにて照射する方法を採用する。1で決定した薬剤と放射線を用いて、併用効果による腫瘍抑制効果と転移抑制効果を検討し、in vitro実験との整合性を確認する。
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