他人由来多能性幹細胞から組織を作出した場合、その移植片はレシピエントの免疫系から拒絶される可能性があり、その場合はレシピエント免疫系の制御が必要である。胸腺移植はドナー由来胸腺上皮細胞の働きにより、拒絶反応の原因となるT細胞の排除および制御性T細胞の誘導に働き、ドナーに対する免疫寛容を成立させることが知られている。本研究では、iPS細胞由来抗原への免疫寛容の達成を目標とし、マウスiPS細胞から胸腺上皮細胞を分化誘導した。これまでに当研究室で作製した胸腺上皮細胞誘導プロトコルに従って分化誘導を行ったところ。上皮細胞マーカーであるEpCAMを発現する細胞を得ることが出来た。これらの細胞のうち胸腺上皮細胞での発現が知られるLy51、UEA1、DLL4を発現する細胞は極僅かであった。前年度までの検討により、転写因子Foxn1の導入が胸腺上皮様フェノタイプ獲得へ寄与する期待が期待されたことから、レンチウイルスベクターを用いてマウスiPS細胞への遺伝子導入を行った。このiPS細胞による分化誘導の結果、Ly51、UEA1、DLL4を発現する細胞の割合は有意に上昇した。胸腺上皮細胞マーカーを発現する細胞をセルソーターにより分取したのち、ヌードマウス(BALB/c-nu/nu)をレシピエントとして腎臓被膜下への移植を行った。移植6週後のレシピエント末梢血をフローサイトメトリーにより解析した結果、胸腺上皮細胞マーカー分子を発現する細胞を移植したマウスでは、胸腺上皮細胞マーカー分子を発現していない細胞を移植した場合と比較して、有意に末梢血中のT細胞の割合が大きいという結果を得た。さらに移植片内部における未熟T細胞マーカーの発現が見られたことから、作製した胸腺上皮細胞はin vivoにおいて機能的であることが示唆された。
|