研究課題/領域番号 |
15H04919
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上本 伸二 京都大学, 医学研究科, 教授 (40252449)
|
研究分担者 |
秦 浩一郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (90523118)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 肝移植 / 臓器保存 / 高圧気相保存 / 一酸化炭素 / 水素 / 虚血再灌流障害 |
研究実績の概要 |
「一酸化炭素(CO)ガスを用いた肝微小循環環境の制御」に加え、COと同じく医療分野への応用が期待され、かつ毒性のない水素ガス(H2)を用いて本研究を発展させた。すなわち「1.水素分子の臓器保存、虚血再灌流障害制御への適応の模索」と「2.一酸化炭素混合ガスを用いた気相保存法の研究」を併せて実施した。
1) 1.0 ppmの飽和濃度以下の水素含有液を作成し、ラット摘出肝臓を用いて臓器保護効果を検討した。摘出ラット肝の冷保存開始時、冷保存中、もしくは冷保存終了時に水素含有液を作用させたところ、特に後者で有意なグラフト肝保護効果(肝逸脱酵素の低下、類洞内皮障害の軽減)を認めた。興味深いことに、水素含有液の投与ルート(門脈もしくは 肝動脈ルート)の違いにより、肝微小構造において異なった作用部位(それぞれ類洞内皮、毛細胆管)を認めた。また、これらの保護効果は生化学的アッセイのみならず、電子顕微鏡、免疫染色標本により形態学的にも確認することができた。
2) COを用いた実験に先立ち、5%二酸化炭素+95%酸素 混合ガス(Carbogen)を用いて、気相保存法で用いる機器の改良、高圧環境(3-5atm)がグラフト肝に与える影響について検討を行った。保存チャンバーとして暫定的に高圧細胞培養チャンバーを用いることとした。気相保存法を実施後の肝組織についての光学顕微鏡所見では明らかな圧障害の所見を認めなかった。安全に留意し、CO+O2混合ガスで気相保存法を実施し、48時間の超長時間保存を実施したグラフト肝より胆汁産生を確認することができた。このことから、24時間を超える長時間保存における気相保存の効果が期待されたが、従来法である浸漬冷保存法に比して、保存臓器の健常性において明らかな優位性を示すには至らなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一酸化炭素ガスに代表される、生理活性作用を有するガス状分子として、新たに水素ガスを加えて実験を発展させることができた。結果的に水素ガスの有する臓器保護効果を確認し、将来的に臨床応用可能な 水素灌流法 の有用性を確認し得た。 一方、一酸化炭素はその毒性のために取扱いが難しい。また今年度の実験成果より、高濃度の一酸化炭素は不要であり、低濃度でも有効である可能性が示唆された。今後、無害な生理活性ガス(アルゴンなどの稀ガス)と一酸化炭素ガスの安定混合ガスを用いて研究・開発を進展させる予定である。本研究においては、本邦最大手の一酸化炭素ガス製造シェアを有する企業からの技術支援を受ける予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
水素ガスの有する臓器保護効果の研究については、今後、同所性肝臓移植モデル(ラット)、同所性肝臓移植モデル(マイクロミニブタ)を実施する予定である。 さらに、マージナル臓器(Extended Criteria Donor: ECD)への発展として、脂肪肝グラフト、心停止後摘出肝臓における、これらメディカル・ガスの保護効果を併せ検討する。
一酸化炭素を用いた高圧気相保存法の研究については、一酸化炭素と稀ガスの混合ガスを複数の条件下で作成し、これを用いて気相保存法を実施する。これに併せて、ガス充填システム、保存チャンバーそのものの仕様をブラッシュアップし、実験環境、将来の実臨床における簡便性と安全性の向上を模索する予定である。
|