研究実績の概要 |
平成27年度の研究結果は以下の通りである。 1)Ca44同位体を用いてスーパーアパタイトの血中半減期、臓器分布、腫瘍への集積を求めた。またマウスの耳介の毛細血管を撮影し、核酸の蛍光の減衰を測定した。ミセルと同等の血中安定性を示すことが分かった。 2)In vivoでmiR-340の抗腫瘍効果の再現性がとれず、KRAS変異大腸癌に効果を示す新たな核酸であるmiR-29b変異体を用いて検討した。miR-29b変異体は、in vitroで大腸癌細胞株LoVo, DLD1, Colo201, HT29で強い増殖抑制、浸潤抑制効果を示した。マウスを用いた皮下腫瘍の治療モデルでも、スーパーアパタイトに搭載したmiR-29b変異体はHT29, DLD1のいずれの細胞株においても強い治療効果を示した。シード配列の結合性から、miR-29b変異体の標的分子の可能性を指摘されたKRAS, PIK3R1, CXCR2の発現レベルはいずれもmiR-29b変異体により抑制された。ウエスタンブロット、レポーターアッセイなどの結果から、miR-29b変異体はNF-kBシグナルを阻害し、survivinを抑制して強力にアポトーシスを誘導することが明らかとなった。更に実用化を見据えて、スーパーアパタイトにmiR-29b変異体を搭載し、マウスに反復投与を行った。体重、生化学検査、組織学的検索でも異常は認めず、前臨床試験への展開が期待された。 3)miR-4689はKRASとAKT1を阻害することでEGFR-MAPキナーゼシグナルを広く抑制し、KRAS変異のある大腸癌に抗腫瘍効果を示すことが分かった。この点は、KRAS発現を抑制したもののMAPキナーゼシグナルの活性を抑制できなかったmiR-29b変異体との相違点である。miR-4689についても同様にマウスへの安全性試験を行い、特段の副作用を認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、miR-340について検討する予定であったがマウスの抗腫瘍効果がみられなかったことから、miR-29b変異体に変更して、繰り越して実験を行った。miR-29b変異体はどの大腸癌細胞株に対しても非常に抗腫瘍効果が高く、スムーズに実験が進んだ。抗腫瘍効果のメカニズムとしてKRAS, PIK3R1, CXCR2などの分子発現を抑制して細胞死を誘導し、NF-kBシグナル伝達を抑制することが明らかとなった。これらの研究成果は、論文にまとめて現在、投稿準備中である。スーパーアパタイトの血中半減期や臓器分布が概ね明らかとすることができ、ミセルと同等の血中安定性を確認した。miR-4689については、in vivoの抗腫瘍効果を確認するともに、特段の副作用がないことを各臓器の組織学的検索と生化学検査を通じて確認した。以上から、繰り越し分としてはおおむね順調に進展したといえる。
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