研究課題
肝胆膵領域癌の予後不良性を克服するため、手術摘出標本の遺伝子解析と臨床病理学的因子を比較検討し、癌治療に有望な新規標的分子を探索する。当施設では2000年からの580例の肝細胞癌、120例の膵癌および170例の胆道癌の切除標本を所有しており、それぞれの症例の全生存期間、無再発生存期間を含めた臨床病理学的因子のデータベースを蓄積している。治療標的として有望な分子について発現分布、臨床病理学的因子との相関を解析し、標的分子探索とする。さらに臨床応用を目指し、新規分子標的阻害治療を開発することを目的とする。本年度は肝癌40例、膵癌40例、胆道癌15例の症例を採取した。過去に我々はAurora kinaseが肝細胞癌の予後不良再発を示す肝細胞癌の独立規定因子としてであることを同定した。さらに、Aurora kinase B特異的阻害剤は前臨床試験レベルでは肝細胞癌に対する有効性を証明した。しかしヒトを対象としたAurora阻害剤の臨床試験の報告からは、Aurora kinase阻害剤単剤投与では既存の治療を凌駕する成績を得ることが難しいことが示されている。そのため我々は、合成致死性の概念に基づいて、Aurora 阻害を増強するような併用療法の開発を目的とした。Aurora kinase 阻害では細胞分裂が抑制され、多核の巨大細胞が出現する。この状態を維持するために、細胞内では抗アポトーシスが惹起されているが、我々は抗アポトーシス分子であるBcl-2ファミリーの更新を検出した。さらに、Bcl2阻害剤との併用療法により、Aurora kinase B阻害剤の抗腫瘍効果を増強することを細胞レベル、マウス動物レベルで示した。同様にAurora kinaseと血管新生因子であるVEGFRとの2重阻害剤の有効性を証明した。今年度は上記を報告した。その他、幾つかの標的分子を同定しており機能解析が進行中である。
2: おおむね順調に進展している
肝癌、膵癌、胆管癌の切除標本からの標本採取、凍結標本作成、RAN抽出方法は確立されており、臨床病理学的因子のデータベースと共に順調に蓄積されている。当施設倫理審査委員会の認定を得ており解析を行う環境は十分に整っている。倫理規定に則り、患者同意のもと順調に採取保存されている。癌標本組織のゲノムシークエンスからは、肝細胞癌の治療標的として有望な分子がいくつか検出されており、それぞれの解析を行っている状況である。Clisper Cas9によるノックイン、ノックアウトの技術も取り入れ機能解析において、さらに高精度分子制御の技術基盤も確立されつつある。前臨床試験に用いる動物モデルは、ヌードマウス、NOD/SCIDマウスなどの免疫不全マウスを用いた異種移植モデルを用いているが、肝細胞癌治療効果評価のための肝同所モデルや培養癌細胞の脾臓注入による消化器癌肝転移モデルなどの技術は確立されている。Aurora kinase 阻害剤の効果判定における腫瘍抑制評価やAurora/VEGFR二重阻害剤の解析においては血管新生評価に用いた。合成致死性に基づいた、Aurora kinase 阻害剤との併用療法開発においては、BCL2ファミリー、血管新生阻害との併用効果を明らかにし、報告した。
手術切除標本の採取を継続する。検出された新規標的分子の培養細胞レベルでの阻害効果をsiRNA、Clisper cas9を用いたノックアウトにより抑制効果解析を行う。特異的阻害剤がある場合にはその効果解析も行う。細胞増殖抑制試験、細胞遊走能、浸潤能の評価、細胞周期解析等の手法を用いて抗腫瘍効果を解析する。また、タイムラプス顕微鏡を用いた抗腫瘍効果のリアルタイム観察による細胞表現型変化の観察、細胞蛍光免疫染色、ウェスタンブロッティング等による、細胞内シグナル伝達等の解析を行い、作用機序の解明および併用効果が期待される分子の探索を行う。合成致死性組み合わせの探索を行う。組み合わせの評価にイメージングサイトメーターであるIn cell analyzer 2000によるハイスループット解析を予定している。さらに 肝胆膵領域癌マウス腫瘍モデルによる前臨床試験の実施。肝細胞癌においては同所腫瘍モデル、NASH発癌モデルを用いた抗腫瘍効果解析が可能である。膵癌は、繊維化が強く、細胞成分に乏しいため手術摘出標本からのサンプル採取が難しい。繊維成分が多いこと自体が難治性の原因となることも指摘されており、Kras/P53 変異による浸潤性膵管癌マウス発癌モデルを作成し、膵癌の繊維化と悪性度および繊維化を標的とする候補分子の同定を目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (40件)
International Journal of Oncology.
巻: 48 ページ: 657-659
10.3892/ijo.2015.3299.
Plos One
巻: - ページ: -
Journal of Gastroenterology
Updates Surgery.
巻: 67 ページ: 123-128
10.1007/s13304-015-0302-7.
Cancer Science
巻: 106(8) ページ: 1016-1022
10.1111/cas.12701.
American Journal of Surgery
巻: 210(3) ページ: 561-9
10.1016/j.amjsurg.2015.03.027.
Annals of Surgical Oncology
巻: 22(9) ページ: 3079-86
10.1245/s10434-014-4292-3.