我々は,糖尿病やアルツハイマー病などの創薬標的として注目されているGSK3βが,これらの疾患とともに「がん促進的に作用する治療標的」であることを発見した.本研究は,GSK3βと大腸がんの悪性形質に関する分子病態をがんの代謝特性やmicro-RNAなどの視点から明らかにする.それに基づいて,臨床応用を視野に入れたシード化合物とアンチセンスオリゴ核酸のがん治療効果を検討するとともに,新規GSK3β阻害剤の同定のため化合物スクリーニング法を考案する.これにより,GSK3βを標的とする大腸がんの病態解明と治療法開発の基盤形成を目的とする. 2種類のヒト大腸がん細胞移植マウスに低分子GSK3β阻害剤を投与した結果,移植腫瘍の中間代謝産物量は解糖系から酸化的リン酸化(TCA)回路優位の変化を示すとともに,ピルビン酸脱水素酵素(PDH)活性が回復し,GSK3β阻害による細胞レベルの効果を検証した.前年度に同定したPDHの4カ所のGSK3βリン酸化標的ペプチド特異的ウサギ抗体を作成した.そのうち1カ所のセリン残基リン酸化が,正常細胞に比べてがん細胞で亢進し,GSK3β阻害により抑制された.以上の結果は、GSK3βがPDHのリン酸化による活性抑制により解糖系優位のがん代謝を誘導していると考えられる.現在,がん治療臨床試験中の米国L社のGSK3β阻害剤は,がん細胞の生存と増殖の抑制効果を示した.cell-based ELISAによる新規阻害剤スクリーニング法の開発に向けて,ヒトグリコーゲン合成酵素に対する単クローン抗体の作成を開始した.
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