研究課題
膵癌にはdesmoplasia と呼ばれる過剰な間質増生がある。癌の悪性度を増強する膵星細胞のmatrix remodeling によって、癌間質は量的にも質的にも維持されることが報告されており、desmoplasia を標的とした新規治療法の開発が進んでいる。本研究では、膵星細胞や癌間質の多様性の観点から、従来のdesmoplasia 標的治療の限界を明らかにする。また、癌微小環境の初期化いわゆるreprogramming によって、腫瘍支持・進展性の膵星細胞から腫瘍抑制性の膵星細胞を誘導する新たな膵癌治療戦略を開発することを目的とする。本年度は、膵星細胞に発現する細胞外接着膜蛋白質であるCD51が膵癌の間質の形成と腫瘍悪性度増強に関与しているかについて検討を行った。外科的に切除した膵癌組織におけるCD51の免疫組織化学染色では、腫瘍間質におけるCD51の高発現は、リンパ節転移、病理学的断端陽性、術後生存期間短縮と相関していることを見出した。膵星細胞におけるCD51の発現を抑制すると、膵星細胞の増殖・遊走能が低下し、細胞外基質と癌間質相互作用に関連する遺伝子の発現が低下した。マウスの皮下に癌細胞と膵星細胞を共移植するモデルを用いた実験で、CD51を抑制した膵星細胞を癌細胞と共に移植した腫瘍において、CD51を抑制していない膵星細胞を癌細胞と共移植した腫瘍と比較して、間質の減少と癌細胞の増殖低下を認めた。これらの結果により、膵癌間質におけるCD51の発現は癌の悪性度と関連し、CD51が膵癌の潜在的な治療標的になりうることを原著論文で発表した。さらに、膵星細胞が産生する細胞外マトリックスの配列が低酸素によって整い、癌細胞の運動性を促進していること,この現象にコラーゲン産生に関わるPLOD2という蛋白質が関与していることを原著論文で発表した。
2: おおむね順調に進展している
ヒト膵星細胞の樹立は確立・継続している。細胞外接着膜蛋白質であるCD51の膵星細胞における発現を抑制すると、癌間質相互作用を介して膵癌細胞の悪性度を低下させることを原著論文で発表した。また、微小環境としての膵癌が産生する細胞外マトリックスが低酸素によって整い、癌細胞の運動性を促進していることを原著論文として発表しており、概ね順調に進展しているものと思われる。
CD51以外の他因子でも癌進展性あるいは抑制性の機能を有する膵星細胞集団を検討する。切除標本における免疫組織学的な検討を行い、代表的な細胞外マトリックスの基質であるコラーゲンや活性化膵星細胞のマーカーであるα-SMA を用いた解析と合わせて、腫瘍抑制性膵星細胞の膵癌組織内での発現分布を検討し、臨床病理学的因子との関連を検討する。ヒト膵癌切除組織でうまくいかない場合は、遺伝子改変膵癌モデルマウスを用いて腫瘍抑制性の膵星細胞集団を同定する。また、腫瘍抑制性の膵星細胞と腫瘍支持・進展性の膵星細胞の網羅的遺伝子発現解析を行い、発現プロファイルを比較・検討し、それらの分子生物学的特徴を明らかにする。
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