研究課題
本研究の目的は、膵癌に特徴的なdesmoplasia と呼ばれる過剰な間質の中で腫瘍抑制性の膵星細胞集団の同定・解析を行うとともに、膵星細胞や癌間質の多様性の観点から、従来のdesmoplasia 標的治療の限界を明らかにする。また、癌微小環境の初期化いわゆるreprogramming によって、腫瘍支持・進展性の膵星細胞から腫瘍抑制性の膵星細胞を誘導する新たな膵癌治療戦略の開発を目指す。本年度は、膵癌間質に高発現する細胞外接着膜蛋白質であるCD146に着目し、膵癌進展に与える影響を解析した。CD146は間葉系幹細胞の分化、血管新生、免疫応答など種々の細胞機能への関与が報告されているが、癌間質における発現の意義は不明である。外科的に切除した膵癌組織におけるCD146の免疫組織化学染色では、CD146は癌間質で高発現し、膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)進展との関連を認めるとともに予後良好と相関していた。また、癌細胞とCD146高発現の膵星細胞との共培養実験では癌細胞の浸潤・遊走能の低下を認めた。CD146高発現の癌間質は、NF-κB経路を介してケモカイン・サイトカインの分泌制御に関わり、癌進展に抑制的に働く膵星細胞集団であることを見出し、CD146が腫瘍抑制性の膵星細胞として潜在的な治療標的になり得ることを明らかにした。さらに、マウスXenograftモデルにおいて、カルパイン阻害剤で抗線維化能のあるカルぺプチンが膵癌細胞や膵星細胞の増殖・浸潤・遊走能の阻害のみならず、癌間質相互作用の制御により腫瘍進展を抑制することを見出し、新たな視点での癌間質標的治療の可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト膵癌由来膵星細胞の樹立は継続しており、現在までに約80種類以上樹立している。また、遺伝子改変膵癌モデルマウスからも多数の膵癌由来膵星細胞の樹立を行っている。これまでの研究では、腫瘍支持・進展性膵星細胞としてCD51高発現膵星細胞集団の同定、腫瘍抑制性膵星細胞としてCD146高発現膵星細胞集団の同定をし得た。また、マウスXenograftモデルにおいて、カルパイン阻害剤で抗線維化能のあるカルぺプチンが癌間質相互作用の制御により膵癌進展を抑制することを見出した。一方、腫瘍支持・進展性膵星細胞の初期化による腫瘍抑制性機能の誘導とそのメカニズムの解明は行えていない。これまでの研究成果は膵星細胞のphenotypeによる機能解析とともに癌間質相互作用の更なる解明につながるものでありおおむね順調である。
CD51、CD146以外の他因子でも膵癌進展性あるいは抑制性の機能を有する膵星細胞の亜集団を同定し、分子生物学的特徴の比較・解析を進める。切除標本における免疫組織学的な検討を行い、代表的な細胞外マトリックスの基質であるコラーゲンや活性化膵星細胞のマーカーであるα-SMAを用いた解析と合わせて、腫瘍進展性あるいは抑制性膵星細胞の膵癌組織内での発現分布や、癌微小環境を構成する細胞分布の違いを検討し、臨床病理学的因子との関連を解析する。ヒト膵癌切除組織でうまくいかない場合は、遺伝子改変膵癌モデルマウスを用いて腫瘍進展性あるいは抑制性に機能する膵星細胞集団を同定する。当研究室では、ヒト膵癌由来膵星細胞の樹立とともに、遺伝子改変膵癌モデルマウス由来膵星細胞も既に多数樹立している。膵癌抑制性に働く膵星細胞の責任遺伝子群の中から、腫瘍支持・進展性膵星細胞のターゲット遺伝子の抑制実験、もしくは過剰発現実験を行い、膵星細胞における腫瘍抑制の性質を誘導する責任遺伝子を同定し、新規化合物による治療開発につなげる。
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