本研究の目的は、膵癌に特徴的なdesmoplasia と呼ばれる過剰な間質の中で腫瘍抑制性の膵星細胞集団の同定・解析を行うとともに、膵星細胞や癌間質の多様性の観点から、従来のdesmoplasia 標的治療の限界を明らかにすることである。また、癌微小環境の初期化いわゆるreprogramming によって、腫瘍支持・進展性の膵星細胞から腫瘍抑制性の膵星細胞を誘導する新たな膵癌治療戦略の開発を目指す。 本年度は、desmoplasiaの中で中心的な役割を果たす膵星細胞に発現し、そのコラーゲンの取り込みに関与するEndo180に着目し、膵癌局所浸潤に与える影響を解析した。癌局所浸潤においては、癌浸潤を誘導する癌関連線維芽細胞の存在が知られているがその機序は不明な点が多い。我々は、三次元培養モデルで膵癌細胞の浸潤を誘導する膵星細胞の存在をタイムラプスイメージングで明らかにした。またマウスモデルにおいて、膵星細胞のEndo180をノックダウンすることで、浸潤方向のコラーゲン線維配列が抑えられ、腫瘍進展が抑制されることを示した。さらに、腫瘍抑制性の膵星細胞の誘導を進めるにあたり、膵星細胞の活性化のメカニズムをオートファジーに着目して解析した。ヒト膵癌切除組織において、膵星細胞のオートファジーは全生存期間の短縮と関連していた。In vitroにおいて、オートファジー抑制剤であるクロロキン投与によって活性化膵星細胞は静止化へと変化し、増殖・浸潤能の低下を認めた。さらに、マウスモデルにおいて膵星細胞のオートファジーを抑制することで腫瘍体積、肝転移・腹膜播種数の軽減を認め、画期的な知見を見出した。
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