研究課題
Neoantigensをターゲットとした肺癌個別化ワクチン開発を進めるにあたり、平成27年度はまず実際の肺癌患者の腫瘍組織を用いて、neoantigenの候補となる遺伝子変異を同定した。原発性肺癌15例に対して、腫瘍および正常肺からDNA/RNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いてwhole-exome sequencing (WES) を行った。得られたシーケンスデータに対して2種類の変異解析ソフトを用いて合計3016個のアミノ酸置換を伴う腫瘍特異的ミスセンス変異を同定した。続いて、患者MHC class Iと結合能が高い(IC50<500)場合に抗原となり得ると仮定し、MHC結合予測プログラムを用いてスクリーニングを行い、最終的に合計1875個のneoantigen候補が同定された。これらのneoantigen候補の中で、患者間で共有されるものが多く存在すれば、次世代シーケンサーによる個別的探索を行わずにワクチン開発を進められるかもしれない。しかしながら、この1875個のneoantigen候補の中で、患者間で共有されているものは一つもなかった。また、既存の癌遺伝子変異データベースに登録されている頻度の高いドライバー変異に由来するneoantigen候補が、今回の実際の肺癌患者で同定されたneoantigen候補に含まれているかを検証した。同定された1875個のneoantigen候補のうち、データベースから予測された仮想neoantigenと一致したものは4個のみであり、大半が患者固有のneoantigenであることが確認された。Neoantigensをターゲットとした肺癌個別化ワクチン開発を進めるにあたり、患者ごとに腫瘍・正常組織からDNAを抽出してシーケンスデータを得ることの必要性が確認された。
2: おおむね順調に進展している
東大病院呼吸器外科で手術を実施した原発性肺癌15例に対して、腫瘍および正常肺からDNA/RNAを抽出し、whole-exome sequencing (WES) を行った。合計3016個の腫瘍特異的ミスセンス変異を同定した。続いて、これらの各変異に由来する変異ペプチドが患者にとって抗原となり得るか、MHCクラスI結合予測プログラムを用いて評価し、合計1875個のneoantigen候補が同定された。この1875個のneoantigen候補の中で、今回の15例の肺癌患者間で共有されているものは一つもなかった。さらに、既存の癌遺伝子変異データベースCatalogue of Somatic Mutations in Cancerから得られた頻度の高いドライバー変異に由来するneoantigen候補が、今回の肺癌患者で同定されたneoantigen候補に含まれているかを検証した。同定された1875個のneoantigen候補のうち、データベースから予測された仮想neoantigenと一致したものは4個(3症例)のみであり、大半が患者固有のneoantigenであることが確認された。今回同定した1875個のneoantigen候補のうち、RNA-seqデータからFPKM>1をカットオフとして発現のあるもののうち、HLA-A2、-A24拘束性neoantigenの数は計339個だった。これらのneoantigenに由来する8-11merエピトープは771個であり、その中でもより高い抗原性をもつと予測されるIC50<50nMのエピトープは195個だった。得られた成果を世界肺癌学会誌Journal of Thoracic Oncologyに発表した。学会発表でも大きな注目を集めており、この分野が非常に重要な領域であることが実感された。よって本研究は概ね順調に進捗している。
現在、次世代シーケンサーとMHC結合予測プログラムを用いたneoantigen予測手法を、より迅速で信頼性のあるシステムとして構築することを試みている。WESデータから同定されたneoantigen候補の中には多くの偽陽性も含まれる。RNA-seqデータを効率的に利用してどの程度偽陽性を減らすことができるか、検証する予定である。また、ミスセンス変異のみでなく、insertion/deletion に由来するneoantigenの解析も行う必要がある。フレームシフトに由来する変異タンパクの配列はミスセンス変異に由来する変異タンパクよりも多様であり、wild typeと大幅に配列の異なるタンパクを作り得るため、免疫の標的となるか評価することは非常に重要である。さらに、我々は現在、RNA-seqデータを用いて免疫関連遺伝子の発現profileを解析し、腫瘍内免疫応答(免疫signature)をin silicoで予測するパイプラインを構築中である。2015年12月、肺癌に対しても抗PD-1抗体の適応が国内承認された。Neoantigenを標的とした癌ワクチンや抗PD-1抗体、あるいはその組み合わせによる複合的免疫治療の開発が急がれている中、個々の患者の免疫signatureを明らかにしていくことが重要と言われている。また、免疫signatureそのものが治療適応を選択する上でのbiomarkerとなり得ると言われている。免疫signature解析を行う際に必要なデータが、neoantigen候補予測で使用したデータと同じであれば都合がよい。Neoantigen予測アルゴリズムに免疫signature解析を組み込むことで、今後neoantigenを標的としたワクチン治療を実現するにあたり、効率よい患者選択を行うことができると予想する。
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Journal of Thoracic Oncology
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PLoS One
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