研究課題/領域番号 |
15H04942
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 淳 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90188954)
|
研究分担者 |
長山 和弘 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00647935)
小原 收 公益財団法人かずさDNA研究所, 技術開発研究部, 副所長 (20370926)
垣見 和宏 東京大学, 医学部附属病院, 特任教授 (80273358)
松下 博和 東京大学, 医学部附属病院, 特任講師 (80597782)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 肺癌 / 腫瘍免疫 / neoantigen / 癌ワクチン / 遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、体細胞変異に由来する新生抗原(neoantigens)をターゲットとした肺癌個別化ワクチンの開発である。個々の患者に対するneoantigenワクチンを開発するためには、検体から抽出したDNA/RNAを用いた体細胞変異検出、MHC結合予測プログラムを用いたneoantigen候補への絞り込み、得られたペプチドが免疫原性を有するかの確認など、様々なステップが必要である。 今年度は、全エキソンシーケンス(WES)データとトランスクリプトームシーケンス(RNAseq)データを組み合わせた効率的なneoantigen候補への絞り込み法の検証、および得られた候補に対する免疫原性の確認を行った。 WESデータから同定された体細胞変異の中には多くの偽陽性や、変異mRNAの発現の乏しいものも含まれる。WESで同定された体細胞変異のリストについて、変異を含む領域のcDNAをPCRで増幅し、アンプリコンシーケンスを実施し、変異mRNAの発現を検証した。RNAseqのデータから変異mRNAの発現を予測するアルゴリズムを構築し、アンプリコンシーケンスの結果と比較した。WESデータとRNAseqデータを組み合わせることで、高確率で変異mRNAの発現を予測できることを確認した。 さらに、予測されたneoantigen候補が、実際に免疫原性のあるエピトープを包含するか確認するために、neoantigen候補ペプチドを合成し、健常人ドナーPBMCを刺激してIFNγ産生能を評価した。ドナーPBMCを用いたneoantigen候補の絞り込みは有効な手法であることが既に報告されている。HLA-A2を有する3人の健常人ドナーPBMCを用いたところ、一人のPBMCに対して2個のneoantigen候補が免疫原性を有することが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全エキソンシーケンス(WES)データとRNAseqデータを組み合わせた効率的なneoantigen候補への絞り込み法の検証にあたり、前年度までにWESおよびRNAseqデータを得られていた肺癌患者の中から、4例の次世代シーケンスデータを用いた。4例の肺癌患者の次世代シーケンスデータを用いた。WESで同定された体細胞変異のリストについて、変異を含む領域のcDNAをPCRで増幅し、キャピラリーシーケンスとアンプリコンシーケンスを実施した。そこで確認された変異mRNAの発現を、RNAseqデータから予測することを試みた。結果、RNAseqにおいて変異アリル頻度(variant allele frequency; VAF)≧4%の遺伝子変異に絞り込むことで、WESデータのみを使用するのと比較して、実際に発現のある変異mRNAを的確に予測することができた(陽性的中率92%、陰性的中率83%)。 さらに、この4例のうちHLA-A2をもつ患者2例について、予測されたHLA-A2拘束性neoantigen候補の免疫原性を検証した。HLA-A2拘束性neoantigen候補は合計36個であり、そのうち27個の変異について、変異・正常ペプチドを合成した。3人の健常人ドナー由来PBMCを各変異ペプチドで刺激し、10日間培養した。培養したリンパ球を変異ペプチドまたは対応する正常ペプチドで刺激し、IFN-γ産生量を測定した。変異ペプチドには反応するが、正常ペプチドには反応しない場合に、変異ペプチド特異的な免疫原性を有すると判断した。結果、一人のドナー由来PBMCにおいて、2個の変異ペプチド特異的な免疫原性が確認された。 得られた研究成果は世界肺癌学会(IASLC 17th World Conference on Lung Cancer)や日本癌学会誌 Cancer Science に発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
Neoantigenを標的とした癌ワクチンや抗PD-1抗体、あるいはその組み合わせによる複合的免疫治療の開発が急がれている中、最適な癌治療を行うためには、患者毎の癌免疫状態を明らかにすることが求められている。RNAseqデータを用いた腫瘍浸潤リンパ球予測や免疫関連遺伝子の発現変動解析を行い、in silico で癌微小環境を統合的に評価する手法を開発中である。CD8、FOXP3等の免疫染色など、従来手法を用いた検証も必要である。さらにTCGAのような大規模公開データベースを参照し、外的妥当性の検証も予定している。このような免疫プロファイリングをneoantigen予測アルゴリズムに組み込むことで、今後neoantigenを標的としたワクチン治療を実現するにあたり、より的確に患者選択を行うことを目指している。 また、これまではneoantigen予測においてミスセンス変異を中心に解析を行ってきたが、insertion/deletion(indels)の解析も行う必要がある。ミスセンス変異の解析に用いているソフトウェアのうち、Varscanはindels の解析にも向いている。ミスセンス変異に対してこれまでに構築した解析パイプラインがindelsにも適用できるように解析環境を整備中である。Indelsの中でも、フレームシフトに由来する変異タンパクの配列はミスセンス変異に由来する変異タンパクよりも多様であり、wild typeと大幅に配列の異なるタンパクを作り得る。大腸癌などでは、ミスセンス変異よりもフレームシフト に由来するneoantigenの重要性が報告されており、肺癌においても免疫の標的となるか評価することは、非常に重要である。 そして、予測されたneoantigen候補が実際に免疫原性を有し、さらには抗腫瘍効果をもたらすかどうか、引き続き検証する予定である。
|