研究課題/領域番号 |
15H04952
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
片岡 大治 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 医長 (40359815)
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研究分担者 |
八木 高伸 早稲田大学, 理工学術院, 客員准教授 (00468852)
中村 匡徳 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20448046)
飯田 秀博 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (30322720)
宮本 享 京都大学, 医学研究科, 教授 (70239440)
梅津 光生 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90132927)
高橋 淳 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (90551408)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脳血管疾患 / 脳血行再建術 / シミュレーション / 流体工学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、脳血行再建術術後の血行動態を、Phase Contrast MRI (PC-MRI)による脳血管血流計測と数値流体力学によるシミュレーション技術を統合することで、脳血流全体の血流再配分機構を再現できる広領域脳血流シミュレータを開発することにある。 局所における血管応答については、脳動脈瘤に対してバイパス術を行った患者の術前後の壁面剪断応力(Wall shear stress; WSS)解析をPC-MRIを用いて行った。これまで、WSSは術後急性期に変化するが、術後3ヶ月以降の遠隔期においては、WSSが術前に値に戻る傾向があることを明らかにしてきたが、さらに脳血管のWSSが複数の健常者・患者でほぼ一定になることを見いだした。 脳血流量と脳組織血流需要の関係については、さらに症例を増やして検討を行った。その結果、健常者では、脳血流は脳組織需要を上回る傾向にあるが、虚血性脳血管障害患者においては血流量が血流需要より不足していること、虚血性脳血管障害患者に対してEC-ICバイパス術を行うと、一部の症例において不足していた脳血流が脳組織血流需要に近づくことも明らかになった。 血液粘度に関しては、脳血管内治療及び脳血管再建術をうける患者29例を対象にして、粘度計を用いて治療前後の血液粘度を測定した。その結果、血液粘度はヘマトクリット値に強く相関すること、また、フィブリノゲン・総タンパク・コレステロール値とも相関することが明らかになった。 末梢血管抵抗については、脳血管バイパス手術を受けた患者4名に対して、末梢血管抵抗と血行動態の変化の相関性を調べた。結果として、術前に比べて、血流が流体力学的に入り込みづらい血管については抹消血管抵抗が減少し、逆に入りやすい血管については増加していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の交付申請書に記載された研究計画は、(1)脳血行再建術前後のPC-MRIを使用した血管径、血流量、WSSの変化の解析、(2)粘度計を用いた抗血小板剤投与や手術が血液粘度に与える影響の解析、(3)脳血行再建術前後の末梢血管抵抗の算出とその妥 当性の検討、(4)PC-MRI及びMRI T1強調画像を用いた脳血行再建術前後の脳血流量と脳組織血流需要の関係の解析である。 (1)に関しては、データ解析はほぼ終了した。脳血行再建術後に血管径や血流量はダイナミックに変化し、術後急性期にはWSSもさまざまに変化するが、術後3ヶ月以降の遠隔期においては、WSSが術前に値に戻る傾向があること、その傾向は術後にWSSが上昇する群においてより顕著であることを見いだした。そのデータをまとめて論文作成中である。 (2)に関しては、すでに29症例につき解析を行った。ヘマトクリットとの相関が強く、その他の因子の解析はまだできていないが順調に進捗している。術前後の変化、抗血小板剤の影響についても次年度に解析を行っていく。 (3)については、解析の方法論も確立し、脳血管バイパス手術を受けた患者4名に対して、手術前後の検討を行った。その結果興味深いデータがでており、ほぼ予定通りに進捗していると考えられる。 (4)に関しては、脳血流量と脳組織血液需要が健常人では等しいという当初の仮説通りの結果にはなっていないが、PETを用いた脳血流代謝の解析を加えることによりそれを解決しつつある。、さらに症例を増やして解析していくと同時に、解析を脳全体から病側のみに絞った解析にシフトする予定であり、ほぼ予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
(1)これまでの研究から示唆されてきたWSS一定仮説を検証するため、これまで測定を行った健常者及び患者の術前後のデータを解析して、脳血管局所における脳血流の変化に対する血管応答性のメカニズムにつき、さらに詳細を明らかにしていく。 (2)粘度計を用いた血液粘度の計測をさらに症例を増やして解析を行う、特に手術前後の変化や抗血小板剤投与の影響について検討を行う。また、これまでは高剪断応力の測定値のみを解析してきたが、低剪断応力の部分についても解析を追加する。 (3)平成28年度の研究を通じて提唱された末梢血管抵抗の変化に関する流体力学的仮説について検証する。そのために、解析患者数を増やす。また、末梢血管抵抗の変化量にも着目し、変化量(あるいは率)について定量的に予測可能であるかどうかについて検討を行う。さらに、昨年度、術後1年までしか検討していなかった患者についても追跡調査を行い、仮説の妥当性を検討する。 (4)虚血性脳血管障害及び脳動脈瘤に対してEC-ICバイパス術を行った患者の、術前後の脳血流及び脳組織血流需要の計測を継続する。これまでは脳全体において、総脳血流量と脳組織の血液需要の比較を行ってきたが、平成29年度は、左右半球別もしくは特定の血管灌流領域での解析を進める。またバイパス術後の脳血流の経時的変化とバイパスの術後の発達・退縮について、その関連を検証する。さらに、PETでの脳血流及び脳代謝のパラメータと、PC-MRIによる脳血管血流量やT1強調画像から推定される脳組織血液需要の関係を明らかにしていく。
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