研究課題
エピゲノム修飾状態は、細胞分裂を経てもなお一部継承される。近年、細胞分裂の際のDNAメチル化維持制御因子であるUhrf1 が、癌細胞増殖などに機能を発揮することが報告されている。しかしながら、骨格組織においてはその役割は全く不明であるため、我々は四肢特異的遺伝子欠損マウスを用いて骨格組織におけるUhrf1の働きについて解析した。四肢間葉系細胞特異的にCreを発現する(Prx1-Cre)マウスとUhrf1 floxマウスを交配し、四肢間葉系細胞特異的Uhrf1KO(cKO)マウスを作出、解析した。軟X線ではcKO群の四肢長管骨長がControl群に比べ、約3割の著明な短縮を認めた。また、組織学的解析ではcKO群の成長軟骨板細胞の柱状配列に乱れを認め、有意な増殖軟骨の面積の減少および肥大軟骨の幅の増加を認めた。さらに、cKO由来初代培養軟骨細胞では、細胞増殖の低下、アルシアンブルーで染色される軟骨基質の著明な低下を認めた。そこで、軟骨分化マーカー遺伝子発現変動を解析した結果、cKO群では、早期分化マーカーCol2、Col11a1に発現低下傾向を認め、後期分化マーカーCol10、Runx2には発現上昇傾向、さらにMmp13の有意な発現上昇を認めた。このことから、Uhrf1遺伝子欠損により軟骨細胞分化が促進され、成長軟骨板における肥大化が進行した結果、長管骨長の短縮を認めたと考えられた。そこで、Uhrf1欠損により軟骨細胞分化促進に至る責任遺伝子群を同定するため、ゲノムワイドなDNAメチル化変動をMeDIP-seq、遺伝子発現変動をRNA-seqで解析し、二つのゲノムワイドデータの統合的解析を行うため、メチル化DNAの濃縮を行った結果、cKO細胞では濃縮されるメチル化DNA量が有意に減少していた。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画に沿って、研究成果が得られている。今年度は、最終的な統合的解析を実施する予定である。
平成27、28年度の研究成果から、四肢間葉系幹細胞特異的Uhrf1遺伝子欠損マウスが、全長管骨の短縮のみならず、四肢全体の低形成、骨密度の低下、骨格変形等を来すことを見出した。このことから、本研究を軟骨のみに限定せず、運動器における多くの組織で評価する意味の重要性を考慮し、開始する。また、樹立したUhrf1遺伝子ノックダウン細胞株での軟骨分化実験では、遺伝子発現低下を認めたものの、細胞株毎にノックダウン効率が大きく異なり、バラツキが非常に大きくなったため、四肢間葉系幹細胞特異的Uhrf1遺伝子欠損マウス由来の初代培養軟骨細胞を用いて、ゲノムワイド解析を行う。Uhrf1の主な分子機能は、その有する複数の機能ドメインからDNAメチル化による遺伝子発現制御に関与しているため、軟骨細胞におけるUhrf1標的遺伝子を探索する。そのために、①RNA-seqによる遺伝子発現プロファイル②メチル化DNAシーケンス(MeDIP-seq)を、分化前後の細胞を用いて、当施設内の次世代シーケンサおよび共同研究により、ゲノムワイドデータの統合的解析を実施する。統合的解析の結果から、同定しえた複数の候補因子について、CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子発現抑制の後に、細胞増殖実験や軟骨分化実験を行い、軟骨基質産生能をアルシアンブルー染色により、軟骨分化マーカーの遺伝子発現変動を定量的RT-PCR法により、その機能評価を行う。またプロモーター領域のDNAメチル化をバイサルファイトシーケンスにて評価する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
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http://www.m.ehime-u.ac.jp/school/imailab
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