研究課題
骨粗鬆症は加齢や性ホルモンの欠乏、代謝性疾患あるいは炎症性疾患の罹患、ステロイドなどの薬剤の使用など、様々な要因が複雑に絡んで発症することが知られているが、その詳細は不明のままである。申請者は閉経によるエストロゲン欠乏モデルとしてマウスの両側卵巣切除モデルであるovariectomy (OVX)モデルを用い、OVXによるエストロゲン欠乏時に破骨細胞において低酸応答性の代表的な転写因子であるhypoxia inducible factor 1 alpha (HIF1α)が蓄積すること、エストロゲンは破骨細胞のHIF1αを蛋白質レベルで抑制する作用があること、またHIF1αの抑制剤の投与はOVXによる骨量減少を完全にブロックできることを世界に先駆けて見出していた(Proc Natl Acad Sci U S A. 2013)。しかし、HIF1αが男性骨粗鬆症においても治療標的となるかは不明であった。本研究では、アンドロゲンがエストロゲン同様破骨細胞のHIF1αを蛋白質レベルで抑制すること、男性骨粗鬆症モデルとして両側精巣切除モデルであるorchidectomy (ORX)モデルを用いて、ORXによるアンドロゲン欠乏で破骨細胞にHIF1αが蓄積することを見出した。さらに、ORXによる骨量減少はHIF1αの抑制剤の投与により完全にブロックできることを見出し、これらの成果について論文で報告することができた(Biochem Biophys Res Commun. 2016)。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、当初からの目標であった男性骨粗鬆症の発症機構について、特にアンドロゲン欠乏性の骨粗鬆症の発症が破骨細胞のHIF1αの蓄積によって発症することを解明し、また、HIF1αの抑制剤の投与によりアンドロゲン欠乏性の骨粗鬆症の発症が完全に阻止できることを世界に先駆けて見出した点で順調に進展している点と考えられる。このことは、前立腺癌の治療等において実施されるhormone depletive therapyにおいてみられる男性骨粗鬆症のマネージメント法を明らかにした点でも評価できると考えている。破骨細胞のHIF1αに対する阻害活性が男女問わず性ホルモン欠乏性の骨粗鬆症の治療標的となること、また今回用いたin vitroにおける薬剤による破骨細胞のHIF1αの阻害活性をスクリーニングする手法が新たな骨粗鬆症治療薬開発のためのスクリーニング法となり得ることに関して特許出願を果たしたことも、本研究が概ね順調に進展していると評価できる点であると考えている。
HIF1αが骨粗鬆症、特に性ホルモン欠乏性の骨粗鬆症の発症の治療標的であることを見出していることから、その阻害剤のスクリーニングを行う。骨粗鬆症薬のスクリーニングは候補となる薬剤をin vivoの動物モデルに投与することでその効果を検証していたが、今回申請者が開発したin vitroの破骨細胞におけるHIF1αの抑制効果でスクリーニングする方法は、スクリーニングできる薬剤の数やその効能評価の期間の点においても有用であると考えている。また、HIF1αは転写因子であることから、破骨細胞におけるその転写標的を同定する。予備的にはHIF1αの代表的な転写標的であるvascular endothelial growth factor (VEGF)が破骨細胞においてもHIF1αの転写標的である知見を得ており、現在破骨細胞特異的なVEGF欠損マウス(VEGF cKO)を作成している。そこで、今後はVEGF cKOマウスの数が十分繁殖によって揃い次第、オスにはOVXを、またメスにはORXを実施し、性ホルモン欠乏による骨量減少におけるVEGFの役割を明らかにする予定である。
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