研究課題
今日の急激な超高齢社会の到来を受けて、骨粗鬆症の患者数は増加の一途をたどっている。骨粗鬆症は加齢や性ホルモンの欠乏など、様々な原因が複雑に絡んで発症することが知られているが、その詳細は不明であった。申請者はエストロゲン欠乏による閉経後骨粗鬆症モデルとしてマウスの両側卵巣切除モデルであるovariectomy (OVX)モデルを用い、OVXによるエストロゲン欠乏により骨吸収を担う破骨細胞内において低酸応答性の代表的な転写因子であるhypoxia inducible factor 1 alpha (HIF1α)がタンパク質レベルで蓄積すること、つまりエストロゲンは破骨細胞のHIF1αを蛋白質レベルで抑制する作用があること、またHIF1αの抑制剤の投与はOVXによる骨量減少を完全にブロックできることを世界に先駆けて見出し報告した(Proc Natl Acad Sci U S A. 2013)。また、女性のみではなく、男性骨粗鬆症モデルとして両側精巣切除モデルであるorchidectomy (ORX)において、HIF1αの阻害剤は骨量減少を完全にブロックできることを見出した(Biochem Biophys Res Commun. 2016)。本研究ではさらに、破骨細胞のHIF1αの抑制効果を持つ薬剤で、すでに上市されている薬剤を4剤同定し、ORXによる骨量減少はこれらHIF1αの抑制効果を持つ薬剤の投与により完全にブロックできることを見出し、これらの成果について論文で報告することができた(Biochem Biophys Res Commun. 2017)。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、課題名の通り性ホルモンと低酸素応答性分子による骨恒常性の制御機構とその破綻による骨粗鬆症発症機構の解明を目指しているが、本研究では、目標通り低酸応答性の代表的な転写因子であるHIF1αが、女性においても男性においても骨粗鬆症発症の鍵分子であることを見出した。また、mouse geneticsのような遺伝子工学的な手法ではなく、より臨床に近い方法として、人為的にHIF1αを阻害する阻害剤も複数同定した。これらHIF1α阻害剤の一部はすでに臨床応用されているものであったことから、性ホルモン欠乏性の骨粗鬆症において、低酸素応答性分子による骨恒常性破綻のメカニズムの理解と、そのメカニズムの解明に基づく新たな治療法、およびその開発法のストラテジーを提案することができたと考えている。今日、HIF1αは様々な腫瘍においても治療標的として注目されており、特に骨に転移する乳がんや前立腺癌では腫瘍の治療のため性ホルモンを抑制する治療を行うことから、性ホルモン欠乏性の骨粗鬆症を発症することも少なくない。しかし、こういった性ホルモン欠乏性の骨粗鬆症では、腫瘍の治療のため性ホルモンの補充が行えない。今回の発見は、こうした腫瘍治療のための性ホルモン欠乏に基づく骨粗鬆症の治療にも有用であると考えられ、HIF1αを標的とした治療法は、閉経等による性ホルモン欠乏性骨粗鬆症に限らず、こうした腫瘍に関連した骨粗鬆症の治療法への発展が期待できることも、本研究が概ね順調に進展していると評価できる点であると考えている。
女性および男性を問わず、破骨細胞のHIF1αが性ホルモン欠乏性の骨粗鬆症の発症の誘因となることを見出していること、すでに破骨細胞のHIF1αを阻害する阻害剤の開発にも成功していることから、今後はその阻害剤を使用するためのタイミングを決定するようなマーカー等の検索を行う。また、性ホルモン欠乏性の骨粗鬆症の発症を増強するような、飲酒や喫煙などの環境要因による骨粗鬆症発症機構の解明ならびにその制御法の解明を目指す。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 9件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件)
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