研究課題/領域番号 |
15H04970
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
佐藤 泰司 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, その他部局等, 准教授 (10505267)
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研究分担者 |
遠藤 昌吾 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), その他部局等, その他 (60192514)
福田 敦夫 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50254272)
後藤 典子 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (10251448)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ERK / 細胞内情報伝達 / 全身麻酔薬 / セボフルラン / 臨界期 / アポトーシス / 自閉症 |
研究実績の概要 |
今回我々が注目したのは「臨界期」と呼ばれる時期における全身麻酔薬曝露がERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)の活性を抑制するというということである。さらに臨界期におけるERK活性化が発達期の神経回路構築に重要な役割を果たしていることを発見した。臨界期とはヒトを含めた脳の発達過程において、環境からの刺激や経験、学習に対して神経システムが敏感で変化し易い時期のことであり、例えばヒトの言語の臨界期においては言語を覚える力が強く、一度覚えると一生に渡って忘れることは無い。臨界期開始前では神経回路は外部からの刺激に依存しない、遺伝的な要因や自発的な神経活動を基にしたプログラムによって形成される。その後臨界期に入り環境からの刺激が入ってくるとその刺激に応じて神経回路が再構成され、精巧な回路へと発達すると考えられている。我々は、臨界期においてERKを中心とした細胞内情報伝達経路が乱れると、神経回路の正常な形成が阻害され、将来的に自閉症様行動を始めとする脳機能異常が発症するという仮説を立てた。この仮説の正否を明らかにするため、臨界期の野生型マウスにERK活性化阻害剤を投与することによって一時的にERKの活性化を阻害し、その影響を解析した。我々はこれまでの麻酔薬の新生仔マウスへの神経毒性を解析した研究結果から、マウスにおける臨界期は生後5-7日目ごろだと推測した。そこで生後6日目のマウスにERK阻害剤SL327を腹腔内投与し影響を解析、ERK阻害剤を単回投与するだけで、脳に変性細胞が大きく増加することを確認した。臨界期が終わったと考えられる生後14目にERK阻害剤を投与しても、変性細胞の増加は起こらなかった。臨界期における全身麻酔薬曝露がERKの活性化を阻害することから、今回の研究は発達期の全身麻酔薬の長期的な影響の作用メカニズムの解明に重要な知見をもたらすと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
発達期の脳における全身麻酔薬の神経毒性の分子メカニズムに重要な知見をもたらしたため。今回行った研究はYufune S., Satoh Y., et al. (2015) Transient Blockade of ERK Phosphorylation in the Critical Period Causes Autistic Phenotypes as an Adult in Mice. Scientific Reports. 20;5:10252.及びYufune S, Satoh Y, et al.(2016) Suppression of ERK phosphorylation through oxidative stress is involved in the mechanism underlying sevoflurane-induced toxicity in the developing brain. Scientific Reports. 6:21859. で発表し、さらに日本麻酔科学会第62回学術集会ランチョンセミナー「セボフレン・再発見」などで研究内容を公表し、大きな反響を頂いた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、現在までの研究結果を基にさらに発達期の麻酔薬の神経毒性の分子メカニズムの解明を目指し、電気生理学的手法を取りいれて解析を続ける。さらに人における対処法開発の基盤構築を目指す。これまでの研究では、全身麻酔薬がなぜ臨界期においてERKの活性化を阻害するのかが未解明のままである。そのため、この点を中心に研究を推進する予定である。
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