研究課題/領域番号 |
15H04977
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大家 基嗣 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (00213885)
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研究分担者 |
三上 修治 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (20338180)
宮嶋 哲 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (90245572)
浅沼 宏 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70245570)
菊地 栄次 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (10286552)
水野 隆一 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (60383824)
小坂 威雄 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (30445407)
篠島 利明 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (60306777)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腎細胞癌 / 分子標的治療 / 血管新生 / 耐性 |
研究実績の概要 |
癌の脅威はその浸潤能、転移性再発や治療抵抗にある。進行腎細胞癌の治療は血管新生阻害薬が治療の中心となった。治療開始時には腫瘍縮小効果がみられ治療成績は向上しているが、ほとんどすべての症例で治療中に耐性が生じることが臨床における最大の問題である。ヒトにおける癌の多くは上皮組織に由来し、悪性度進展に伴い、上皮-間充織形質転換に類似した事象が誘導され、高い浸潤性や転移性、場合によっては幹細胞的性質も獲得されると考えられている。我々は腎細胞癌が先進国で増加し、環境汚染と関連していること、喫煙がリスクファクターであることを考え、さらに上皮間葉転換を誘導する可能性から芳香族炭化水素受容体(AhR)が腎細胞癌の浸潤や進展と関連する可能性を考慮し、AhRの発現を腎細胞癌の120例の切除標本を使用して発現を解析した。AhRを活性化するindirubinとTCDDをin vitroで腎細胞癌の細胞株に投与した結果、CYP1A1とCYP1B1を誘導し、さらにマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の発現誘導を介して細胞の浸潤は増加した。siRNAによってAhRの発現を源弱させると浸潤能は低下した。当初は腎細胞癌におけるAhRの発現を検索する予定で開始した研究であったが、切除検体の発現を検索する過程でAhRの発現が癌だけでなく、腫瘍周囲に浸潤するリンパ球にも発現することを発見した。腎細胞癌のグレードやステージが高い腫瘍においてAhRを発現する腫瘍浸潤リンパ球が多く存在する事を明らかにした。このようにAhRは予後予測因子であり、上皮間葉転換を促進することで腫瘍の浸潤を促進するため、治療標的分子となりうることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
癌細胞にのみ発現すると予想されたAhRが腫瘍浸潤リンパ球に発現しているという発見は予想をしていないものであった。さらにこのリンパ球での発現は腫瘍の悪性度が高いことと関連していることがわかった。このことは悪性度の高い癌をAhRの発現を有するリンパ球が認識している可能性を示唆している。しかし、悪性度の高いがんは生存を継続し、浸潤と転移をきたして患者を死に至らしめる訳であるから、おそらく癌を死滅させる能力をAhR発現リンパ球は有していないと考えられる。この推察は現在、腫瘍学で最も注目されているPD-1/PD-L1経路による免疫チェックポイントとの関連も示唆されるので、これからの研究への扉を開いた感がある。
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今後の研究の推進方策 |
癌細胞(seed)は適切な土壌(soil)でのみ転移巣を形成できるという「seed & soil」説が提唱されて以降、癌細胞の増殖にはこれを取り巻く微小環境がきわめて重要であると考えられてきた。癌の間質には線維芽細胞、炎症細胞、免疫担当細胞、血管、リンパ管に加えて結合組織が存在し特徴的な微小環境を構築している。これらを統合的に解析することを継続し、特に血管を着目する予定である。腎細胞癌は早期からHIF-VEGF経路の活性化がみられるが、TKI阻害剤治療により同経路が阻害されると他の分子経路が活性化されることで腫瘍増殖が維持されていると推測される。その機構は主たる作用部位である血管内皮に作用しているはずである。スニチニブ等のTKI阻害剤によりアポトーシスに陥る血管内皮細胞も見られるが、残存した血管周囲を着目し、その特殊性をVASH-1などの新規のマーカーを使用して解析する予定である。
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