研究課題
腎細胞癌を特徴づける血管新生と浸潤性に着目して、腎細胞癌の浸潤・転移機構の解析とともに分子標的治療抵抗性の分子病理学的解析を中心に研究した。淡明細胞型腎細胞癌ではVHL遺伝子の不活化によるHIF-VEGF分子経路が血管新生と癌細胞増殖に関与しており、転移を有する淡明細胞型腎細胞癌では同経路を阻害するスニチニブなどの血管新生阻害薬であるtyrosine kinase inhibitor (TKI)による分子標的治療が第一選択となっている。TKIは癌細胞自体を標的とするのではなく、がんを栄養する血管を標的にしている。何故、血管内皮細胞を障害するTKIに耐性が生じるかは不明である。我々はスニチニブ治療後のがん組織を解析した結果、腫瘍血管はほとんど死滅しているものの、細かな腫瘍血管が残存し、その腫瘍血管にはVasohibin-1が発現していることを発見した。このことはVEGFによる血管新生をTKIで阻害すると腫瘍の微小環境では血管のリモデリングによりがんは生存し、抵抗性を獲得することを示唆する。この機序においてVasohibin-1が関与することを示した。抵抗性を獲得した腎細胞癌はがん細胞のフェノタイプとして紡錘形に変化し、これまで、上皮―間葉転換(EMT)が浸潤・転移に関与するだけでなく、治療抵抗性のメカニズムであることを示してきた。EMTをきたす機序について解析し、脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸がArf6を活性化する経路が寄与するという腎細胞癌独自のメカニズムを発見した。Arf6経路の分子の高発現は患者の予後不良因子であり、バイオマーカーとして利用可能であることを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
TKI治療後の血管のリモデリングを提唱した初めての報告であり、今後の腎細胞癌治療に対してインパクトのある成果であると考えている。腎細胞癌の血管新生に関してはVEGF経路の活性化が機序であることは古くから知られているが、浸潤のメカニズムは不明であった。分子細胞レベルで詳細に解明したことに大きな意義があると考えている。この機序は従来我々が報告してきたEMTと重なることは治療抵抗性とがん幹細胞性とEMTが表裏一体であることを裏付けている。
転移性腎細胞癌の治療の選択肢に免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが加わった。今後の治療の展開にバイオマーカーの検索が盛んになると考えられる。がん微小環境での血管リモデリングに加え、免疫細胞のリモデリングの検索が課題であると考え、研究を推進して行く。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
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