研究課題
本研究では、母体、胎児免疫相関からみた妊娠維持機構ならびにその破綻につき検討した。(1)妊娠中、母体末梢血NK細胞は胎盤由来マイクロRNAを取り込んでおり、分娩後は、これらのマイクロRNAが数日でクリアランスされることを明らかにした。バイオインフォマティクス解析から、妊娠後期NK細胞ではNK細胞の細胞傷害性が活性化する方向に制御されており、分娩との関連性が示唆された。(2)妊娠初期の脱落膜中より、NK細胞を純化し、マイクロRNAと遺伝子発現の網羅的解析を正常妊娠5例、胎児染色体正常流産5例、胎児染色体異常流産5例で、データを集積した。(3)流産例では染色体正常例に限って、脱落膜中のfunctional Treg細胞が減少しeffector T細胞が増加し、胎児拒絶反応が生じていることが判明した。(4)制御性T(Treg)細胞をsingle cell sortingし、mRNAからcDNAを作成後、RT-PCR法を行なった。約9割でTregのマーカーであるFoxp3 mRNAが検出され、T細胞受容体(TCR)のレパトア解析を行なった。妊娠6週までの人工妊娠中絶検体では末梢血、脱落膜ともTreg細胞におけるクロナリティーの集束は認められなかった。一方、妊娠7週以降はTreg中のクロナリティー集束が脱落膜中に認められた。即ち、ヒト妊娠において、胎児抗原特異的Treg細胞が着床局所に集簇している可能性を示すことができた。(5)ヒト羊膜細胞の肝硬変モデルマウス(CCL4投与)に1回投与したのみで、肝線維量が有意に減少した。さらに多発性硬化マウスに羊膜細胞を1回投与したのみで24時間後には跛行が消失し、運動が速やかとなった。さらに組織や臓器移植した際に羊膜細胞を同時に移植すると、拒絶反応が抑えられることが判明した。すなわち羊膜細胞には拒絶反応を抑制する効果があることが判った。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)胎盤由来のマイクロRNAが母体NK細胞の機能を制御していること、ならびに妊娠末期にマイクロRNAが変化し、細胞傷害活性を強め、拒絶(分娩)を誘発している可能性を示した。これらのことは胎盤由来のマイクロRNAが分娩を誘発するという新しい概念を生み出したことになり、高く評価できる。(2)胎盤由来マイクロRNAが妊娠初期の流産に関与するかを検討するため、すでに脱落膜、末梢血よりNK細胞を純化して、正常例、胎児染色体正常流産、胎児染色体異常流産、各5例ずつでマイクロRNAの網羅的解析を終了した。同時にNK細胞のmRNA発現を網羅的に解析したので、現在、3群間の差を検討し、さらに胎盤由来マイクロRNAとNK活性の活性化につき解析を加えている。(3)ヒト流産で拒絶反応が起こっているかは、永年に渡り不明であったが、胎児染色体正常流産では拒絶反応を抑制するfunctional Treg細胞が子宮で減少し、さらに拒絶反応を引き起こすeffector T細胞が増加することは、ヒト流産でも拒絶反応が起こっていることを示すものである。一方、胎児染色体異常例では胎児事態の異常により流産が起こっており、母体免疫系は拒絶反応を示していないことが明らかとなった。(4)ヒトにおいてはマウスと異なり、父親(胎児)抗原特異的Treg細胞は同定できない。これまでのマウスの実験系では我々を含め特定の胎児抗原を認識するT細胞受容体を持つTreg細胞が妊娠子宮に集積することが判っている。今回、初めてヒト妊娠においても妊娠7週以降になると特定のT細胞受容体を持つTreg細胞が子宮に集積することが証明された。(5)羊膜細胞が拒絶反応や炎症反応を抑制することが明らかとなった。以上より、胎盤由来マイクロRNA、羊膜細胞、胎児特異的Treg細胞が胎児拒絶を防いでいることが明らかとなった。
本年度の計画として、以下のことを考えている。1)胎児染色体正常流産、胎児染色体異常流産では前者でTreg細胞が減少していることを昨年度示した。本年はNK細胞中の胎盤由来マイクロRNA、NK細胞のmRNA発現を網羅的に解析するデータが出そろうので、胎児染色体正常流産例でのNK活性の亢進機序を明らかにしたい。予想される結果として、何らかの胎盤由来マイクロRNAがNK活性を抑制して胎児拒絶を防いでいると考えられる。もし特定の胎盤由来マイクロRNAが検出されれば、早産例や妊娠高血圧腎症でも同様の事象が認められるかを検討する。2)ヒト妊娠子宮でのTreg細胞のT細胞受容体は妊娠初期に変化することを認めたので、妊娠経過中の末梢血での変化を分娩まで連続的に検討する予定で、すでに20症例のストックを終えた。また、分娩時に10例で脱落膜より単核球を採取した。これらの細胞中のTreg細胞のT細胞受容体のクロナリティーを検討する。集積しているT細胞受容体をT細胞受容体と欠損するT細胞に遺伝子導入し、児の抗原を認識しているかを確認する。3)Treg細胞のクロナリティー以外にCD8+T(細胞傷害性T細胞)にクロナリティー集簇も検討する。4)羊膜細胞のマイクロRNA発現を網羅的に検討し、細胞傷害性T細胞やNK細胞の細胞傷害活性を抑制するメカニズムを明らかにしたいと考えている。昨年と同様の手法を用いるため、手技的には容易と考えられる。
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