研究課題
ヒトにおいて、制御性T細胞(regulatory T cells;Treg)は母子境界領域で免疫寛容を誘導し、妊娠維持に重要な役割を果たすことが示唆されている。しかし、ヒトではヘテロな集団であるため、父親抗原特異的Tregの同定は誰も成功していない。父親抗原特異的Tregでは父親抗原に反応するT cell receptor(TCR)をもつTregが増加している可能性がある。今回、ヒト妊娠例の末梢血と脱落膜で、クローナルなTregが出現するか否かを調べた。脱落膜から取得したeffector Tregでは、妊娠初期よりも後期でクローナルなTCRレパートリーの割合が増加していた(6.7±6.3% vs 21.6±7.4%, p=0.001 )。末梢血リンパ球から取得したeffector Tregでは、クローナルな細胞は皆無であった。妊娠初期流産患者の脱落膜NK細胞(dNK)と末梢血NK細胞(pNK)のmiRNAおよびmRNAの網羅的比較解析を行った。流産群で5倍以上有意に変動したmRNAは、dNK細胞で9種、pNK細胞で69種であった。流産で発現低下したものにケモカイン、インターロイキンが含まれていた。miRNAに関しては、流産群dNK細胞で10種、pNK細胞で12種が2倍以上有意に変動していた。バイオインフォマティクス解析から、miR-4701-5pの高発現によるIL-10の抑制の可能性が明らかとなり、流産機序への関与が示唆された(論文作成中)。今年度は胎児染色体正常と異常での差を検討する予定。羊膜上皮細胞(HAEs)、羊膜間葉系細胞(HAMs)、iPS細胞から抽出したRNAを用いてmiRNAの発現を比較した結果、miR23a, miR30a, miR135, miR184,miR675 はHAEsで特に発現が高く、miR29a はiPS細胞で特に発現が高かった。
2: おおむね順調に進展している
・ヒトリンパ球より、セルソーターでCD4+CD25+CD127lowCD45RA- effector Treg細胞を単一細胞ソートする事に成功し、さらに単一細胞からTCRβ鎖の塩基配列を決定し、妊娠子宮でのみクローナルなeffector Treg細胞が増加しており、末梢血では全くクローナルなeffector Treg 細胞が認められない事を、世界で初めて証明した。・クローナルなeffector Treg 細胞が妊娠初期より妊娠後期に増加する事を初めて証明した。・流産例では胎児染色体正常群ではTregの数が減少したが、クローナルなTregの割合は正常妊娠と同様であった。つまり、effector Treg数の低下により流産となっている可能性がある。一方、胎児染色体異常流産例では、正常妊娠例と比べてeffector Treg数も同様で、クローナルなTregの割合も同程度であり、免疫学的には変化を認めず、胎児異常そのもののため流産となっている可能性がある。・NK細胞を末梢血と脱落膜より分離し、mRNAとmiRNAを同時に網羅的解析し、流産で変化するmRNA、miRNAを同定した。またバイオインフォマティクス解析からmiR-4701-5pの高発現によるIL-10mRNAの発現抑制との関連性が初めて明らかとなった。・羊膜上皮細胞、羊膜間質細胞、iPSに高発現するmiRNAを同定した。これらのmiRNAが母体免疫細胞にどのように作用するかを探る糸口を得た。
・流産例(胎児染色体正常群と異常群)と正常妊娠例、妊娠高血圧腎症例でeffector Treg 細胞のTCRβ鎖のみならず、α鎖も解析し、これらの病態がeffector Treg 細胞の減少に起因するのか、TCRクロナリティーの減少に起因するのか、もしくは両者に起因するのかを明らかにする。その事により、ヒト流産においても免疫学的トレランスの破綻が流産となる事を証明する。・妊娠を繰り返し、2回目の妊娠例を3例集める事ができたので、1回目の妊娠と2回目の妊娠で共通のTCRを有するeffector Treg 細胞が増加しているかを検証する。TCRは10の6乗通りあるので、1回目と2回目で共通のレパートリーが使用されていれば、これらのeffector Treg 細胞が父親抗原を認識している可能性が極めて高くなる。・正常妊娠例と流産例(胎児染色体正常と異常)で胎盤由来miRNAや羊膜由来miRNAとNK細胞のmRNA発現につき、さらに詳細に解析を加え、胎児由来であるトロホブラストや羊膜から分泌されるmiRNAが母体免疫機能を抑制するメカニズムを明らかにする。また、これらのmiRNAをin vitroで添加することにより、NK細胞やT細胞機能が低下するかを検討する。
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