研究実績の概要 |
内耳性難聴の原因のひとつに古くから自己免疫の関与が考えられており、自己抗体や標的タンパクの同定を中心に国内外で多くの基礎的・臨床的検討がされてきている。当研究では自己免疫発症の実態である免疫寛容の破綻に焦点を当て、発生工学を駆使して新規自己免疫性難聴トランスジェニックマウス(Tg)モデルを樹立し解析している。内耳有毛細胞に外来抗原HA(Hemagglutinin)を強制発現するTgとしてMath-HAを樹立した。Math-HAマウス用の外挿遺伝子作製には、HA 遺伝子(HA,A/PR/8 H1N1 (PR8), HA512-520 ペプチド)を米国UCR, Scripps研究所(Carlson博士)から供与を受け、内耳有毛細胞特異的遺伝子発現には過去に定評のあるMath1遺伝子J2X enhancerをUT Southwestern医学センター, Johnson博士から供与を受けて用いた。さらにこのHA抗原を特異的に認識するCD4+ T細胞、CD8+T細胞を有するTg (6.5TCR,CL4-TCR)をそれぞれハーバード大学医学部のvon Boehmer研究Northwestern大学Khazaie博士より導入した。それぞれをMath-HAと交配させたところ、前者との二重Tgは一側性低音障害から始まる変動性進行性感音難聴を、後者との二重Tgは緩徐進行性両側性高音障害型難聴を呈した。 また、変動性難聴を呈する二重Tgを経時的に解析すると、難聴の進行に伴って姿勢障害、歩行障害を呈する個体が現れ、本モデルにおいては前庭機能障害を合併する可能性が示された。組織学的解析から前庭障害を呈する個体の蝸牛において内リンパ水腫が認められ、内耳有毛細胞へのCD4陽性T細胞による自己免疫が内リンパ水腫を引き起こすことがprospectiveに示された。
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