研究課題
今日、網膜剥離(RD)の主たる治療法は外科的手術である。治療成績は90%を超えるが、中にはRDが再発したり、網膜の表面が線維性に富んだ増殖膜で覆われてしまう増殖硝子体網膜症(PVR)というより重症な疾患へ進行する症例がある。RDからPVRへ移行する原因の一つとして、生物学的には網膜色素上皮細胞(RPE)の上皮間葉転換(EMT)が関与しているとされている。しかし臨床像を検討すると、どのRD症例がPVRになるのか予測するマーカーが存在していない。臨床経験上、網膜多発裂孔や出血を伴う症例はPVRになりやすいと言われているが、科学的な裏付けはない。一方、PVRの予防方法として古くからステロイドが用いられてきたが、それだけではすべてのPVRを予防・治療することができておらず、結局は外科的治療のみに頼っている。我々は、RD患者の眼球に特異的に存在するmicroRNAを測定しプロファイリングを行った。その結果、他の網膜疾患では検出されないhsa-miR-148aが、RD眼球には多く存在することが明らかになった。また、培養RPE細胞を用いた実験では、hsa-miR-148aがRPE細胞のEMTを促進していることが明らかになった。つまり、網膜剥離眼球内のhsa-miR-148aが、PVRの発症を促進していることが強く示唆された。このことから、RDならびにPVR患者の硝子体液からhsa-miR-148aを測定することで、RDからPVRの進行を予測することが可能であると考えられた。一方、カベオラの形成に重要なタンパクであるCaveolin-1が様々な組織の線維化に関与していることが報告されている。PVR組織を免疫染色すると、Caveolin-1が増殖膜に発現していることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
名古屋大学医学部附属病院の倫理員会で承認を受け、網膜剥離(RD)患者の手術時に血清・硝子体液・網膜下液を採取し、その結果からhsa-miR148が特異的に発現していることを確認し論文発表した(Takayama K, et al, IOVS, 2016 In press)。このように、網膜剥離(RD)・増殖硝子体網膜症(PVR)患者からのサンプル採取はセットアップされており、microRNAや様々なサイトカインなどを測定する環境が整った。その一つとして、炎症性サイトカインを網羅的に測定するための検査方法をセットアップしており、数例のテストサンプルから有効なデータが得られている。
名古屋大学医学部附属病院で硝子体手術を行うPVR・RD症例からhsa-miR-148aを測定し、hsa-miR-148aの発現量と疾患の重症度、臨床経過との関連性を分析する。さらにhsa-miR-148aの測定がバイオマーカーとして有用であることを知的財産として取得する。また、前述したCaveolin-1の発現量を再確認し、caveolin-1を制御しているmicroRNAの有無について検討する。1.候補microRNAと上皮間葉転換EMT現象の関連性をより深く確認する。①硝子体手術を行うPVR・RD症例からhsa-miR-148aを測定し、hsa-miR-148aの発現量と疾患の重症度、臨床経過との関連性を分析す る。一般的に臨床研究で予後不良因子とされる網膜剥離の多発裂孔や出血によって、mir-148aの発現がどのように変化していくかを 観察する。2.臨床実験のPVR患者から網膜下液/硝子体液中に存在するmicroRNAとCaveolin-1を測定する(real-time RT-PCR,ELISA)。①PVR患者から網膜下液/硝子体液のmicroRNAを抽出し、real-time RT-PCR法でmicroRNAの発現量を測定する。②PVR患者から網膜下 液/硝子体液のRNAを抽出し、real-time RT-PCR法あるいはELISA法でCaveolin-1の量を測定する。③Caveolin-1の発現量を制御して いるmicroRNAを発見し、mir-148aに作用させる。3.動物モデルで候補microRNAがPVRを促進あるいは止めることを確認する。 ①これらの候補microRNAを高濃度で眼球内に注射し、眼底にPVRを作成させる。摘出された眼球を用い、免疫染色し、Caveolin-1の 発現量を測定し、野生型と結果を比較する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 4件、 査読あり 22件、 オープンアクセス 22件、 謝辞記載あり 22件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 12件、 招待講演 3件)
Int Ophthalmol.
巻: inpress ページ: inpress
Invest Ophthalmol Vis Sci.
巻: 57(3) ページ: 889-898
10.1167/iovs.15-18403.
Free Radic Biol Med.
巻: 94 ページ: 121-134
10.1016/j.freeradbiomed.
Signal Transduct Target Ther.
巻: 1 ページ: 15001
J Glaucoma.
巻: 25(3) ページ: e295-298
10.1097/IJG.0000000000000371.
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 113(1) ページ: E81-90
10.1073/pnas.1512590113.
PLoS One.
巻: 11(1) ページ: e0147782.
10.1371/journal.pone.
Ophthalmic Res.
巻: 55(1) ページ: 37-44
10.1159/000440885.
巻: 56(12) ページ: 7243-7249
10.1167/iovs.15-16742.
Jpn J Ophthalmol.
巻: 59(6) ページ: 378-388
10.1007/s10384-015-0401-5.
Curr Eye Res.
巻: 2 ページ: 1-4
Ophthalmology.
巻: 122(10) ページ: 2044-2052
10.1016/j.ophtha.2015.06.017.
Ophthalmologica.
巻: 243(4) ページ: 243-246
10.1159/000439119.
J Perinatol.
巻: 35(9) ページ: 965-969
10.1038/jp.2015.112.
Medicine (Baltimore).
巻: 94(33) ページ: e1256
10.1097/MD.0000000000001256.
Retina.
巻: 35(8) ページ: 1521-1530
10.1097/IAE.0000000000000502.
巻: 35(8) ページ: 1569-1576
10.1097/IAE.0000000000000526.
巻: 59(5) ページ: 353-363
10.1007/s10384-015-0400-6.
巻: 56(8) ページ: 4880-4890
10.1167/iovs.15-16567.
巻: 10(7) ページ: e0128921.
10.1371/journal.pone.0134267.
巻: 56(5) ページ: 3034-3040
10.1167/iovs.14-15981.
Cell Death Dis.
巻: 6 ページ: e1731.
10.1038/cddis.2015.73.