研究課題/領域番号 |
15H04998
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
世古 裕子 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 感覚機能系障害研究部, 研究室長 (60301157)
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研究分担者 |
梅澤 明弘 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 再生医療センター, 副所長/再生医療センター長 (70213486)
東 範行 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 感覚器・形態外科部, 医長・室長 (10159395)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 眼発生・再生医学 / 網膜視細胞 / ダイレクト・リプログラミンング |
研究実績の概要 |
感覚の90%を占める重要な機能である視覚におけるセンサーである網膜は、1度損傷を受けると回復は困難である。失われた視覚の再生を目指して網膜の再生研究が行われているが、就労学齢期の失明原因の第1位を占める網膜色素変性症は神経網膜、その中でも最初に光を感受する細胞である視細胞を再生しないと視覚回復は期待できない。我々は、ヒト体細胞(虹彩細胞と皮膚線維芽細胞)からダイレクト・リプログラミングによって網膜視細胞様の細胞を作製することにすでに成功している。本研究は、ダイレクト・リプログラミングによる網膜視細胞作製を完成させ、応用範囲を広げることを目指している。 平成27年度には、①平成28年度以降に予定されていた変性視細胞モデルの作製と解析を前倒しして開始した。単離・培養した網膜色素変性症患者細胞から変性視細胞を作出し解析した。特に、日本人常染色体劣性網膜色素変性症に多くみられるEYS遺伝子の変異を保有する患者の細胞由来転写産物の解析を行い、遺伝子変異の種類による違いあるいは分化誘導の時系列にそった変化を整理し、データの1部をセンター内発表会で発表した。②平成27年度に予定されていた研究として、細胞ソースをヒト眼球由来虹彩細胞やヒト皮膚線維芽細胞からヒト末梢血単核細胞へと広げ、誘導方法の改善を目指した。in vivoに近い条件で培養するため、ラット網膜色素上皮細胞との共培養を行い、3種類の転写因子を本来の発生過程に近い時系列で導入するために、レトロウィルスベクターと細胞質型RNAウィルスベクターを併用し導入した。現時点で、ヒト末梢血単核細胞から分化誘導した視細胞様細胞にロドプシンなど視細胞特異的遺伝子の発現と光応答が確認された(論文投稿中)。③長期誘導・最終分化を可能にするためには導入するベクターの改良することが必要であり、新規ベクターの開発に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度以降に予定されていた変性視細胞モデルの作製と解析を前倒しして開始した一方で、平成27年度に予定されていた網膜前駆細胞の作製を平成28年度以降に持ち越した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降は、①分化誘導過程でRNA/DNAを抽出し、マイクロRNAを含めた網羅的遺伝子発現解析とメチル化解析を行う。これによって、網膜分化を制御する遺伝子群のネットワークを明らかにする。miRNAは、複数の遺伝子を制御することによって分化を制御する可能性が指摘されており、さらに効率のよい治療法につながる。② 解析の結果を分化誘導方法の改良へとフィードバックする。分化誘導は、A.ダイレクト・リプログラミング、B.インダイレクト・リプログラミング、C.網膜へ運命決定する転写因子遺伝子をiPS細胞に導入、の3種類の方法を平行して進める。 本研究は、in vitroにおける網膜視細胞の作製という開発研究であると同時に、視細胞の再生分化の過程に関する仮説の検証も同時に行うものである。ヒト細胞を用い、網膜の個体発生に基づいた分化誘導モデルを展開し、網膜前駆細胞、そして網膜組織の成熟した細胞へと分化するプロセスを生体外で厳密に再現する。 さらに本研究は、網膜変性疾患モデル細胞の作製に直接応用可能である。たとえば、網膜色素変性症(retinitis pigmentosa、以下RP)は、先天性視覚障害の代表疾患であり、成人中途視覚障害原因の3位になっている。発症から失明に至るまでの経過が長いことも特徴であり、進行を食い止める有効な治療法の開発が望まれる。本研究では、網膜変性疾患モデル細胞の作製と系のスモールスケール化を実現し、大規模な前向き疾患コホート研究の準備を整えるモデル細胞としては、網膜変性の患者由来細胞とゲノム編集技術を駆使した正常細胞との両者から作製する。
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