研究課題
本研究では、研究者らが先行研究で開始した、搬送先医療機関の治療体制、低体温療法などの集中治療に関するデータの集積を更に進めるとともに、従来評価が困難であった救急隊員が行う『心肺蘇生の質』も含めて、院外心停止例の救命に寄与すると思われる要因を包括して前向きに登録する仕組みを構築するとともに、多面的に分析し、院外心停止の社会復帰率を向上させるための治療ストラテジ、地域の救急医療体制を検討し、提案することを目的とする。平成28年度は、前年度に引き続き病院到着後の集中治療に関するデータを前向きに登録・分析し、研究分担者・協力者,参加施設との研究会議を概ね月1回のペースで定期的に開催した。平成26年12月までの5,071例(前年度時点では2749例)の症例についてデータを確定し、研究参加施設から提案のあった解析テーマの検討を進めている。平成28年度は、「心肺蘇生中の酸素分圧と予後との関連」「自己心拍再開後の酸素分圧と予後との関連」について、米国心臓協会 (AHA) 年次学術集会で成果を報告した。さらに、平成27年度に研究協力関係を構築した大阪府内の複数の消防機関(枚方市・寝屋川市、吹田市、箕面市・池田市)と共同で、救急隊員が行う『心肺蘇生の質』に関わるデータを収集するコホート研究の立ち上げにかかる調整・準備を行い、平成28年度よりデータ登録を開始した。『心肺蘇生の質』を含むコホート研究については、対象地域内で発生した成人の院外心停止例のうち、救急隊が蘇生処置を行い医療施設に搬送された、全ての症例を対象としている。平成28年11月よりパイロット登録を開始し、平成29年2月から本登録開始した。平成29年4月時点で、359例の症例を登録している。
2: おおむね順調に進展している
本研究の基盤となった基盤研究 (C) で構築した研究体制を発展させ、大阪の救命救急センターを中心に12施設からなる研究体制を構築した。研究参加施設の現場負担が少ない体制を維持するため、研究事務局にデータマネージャーを確保し、データの質を維持するとともに登録症例数を確保している。平成26年12月までの5,071例(前年度時点では2749例)の症例についてデータの確定を完了し、研究は順調に推移している。平成28年度は、「心肺蘇生中の酸素分圧と予後との関連」「自己心拍再開後の酸素分圧と予後との関連」について、米国心臓協会 (AHA) 年次学術集会で成果を報告した。前者の「心肺蘇生中の酸素分圧と予後との関連」については平成25年12月までのデータを用いて、心肺蘇生中の酸素分圧が高いほど生命予後と関連があることを報告し、本発表はYoung Investigator Awardを受賞した。後者の「自己心拍再開後の酸素分圧と予後との関連」については、平成25年12月までのデータを用いて心肺蘇生後の酸素分圧が高い群の方が低い群と比較すると生存率が高いことを報告した。心肺蘇生の質に関わるデータについては、協力消防機関に導入する除細動器に付属する加速度センサーで自動的に記録、収集し、データマネージャーがデータクリーニング後、研究者がダブルチェックしたうえで現場に還元する体制を構築した。データクリーニングについては、データの質向上のため、先行して研究を実施しているアリゾナ大学のデータマネージャーとミーティングを行い、データクリーニング法に関する指導を受け、クリーニングに関する基準を確立させた。平成28年11月よりパイロット登録を開始し、平成29年2月から本登録開始した。平成29年4月時点で、359例の症例を登録しており、順調に症例集積が進んでいる。
病院前蘇生記録、医療機関での低体温療法等の集中治療等の記録については、年間2000症例を超える症例集積を実現しており、引き続き症例の蓄積を進めるとともに、現在参加している救命救急センター以外にも救急受け入れ機関の参加を呼び掛けていく。研究分担者・協力者、参加施設との打ち合わせを定期的に開催し、研究の質向上を図るとともに、集積されたデータの解析、国内・国際学会での発表、論文作成を進める。現場から提案のあった「予後予測因子の検討」「来院時血清アルブミン濃度と予後との関連」「来院時腎機能と予後との関連」「高濃度酸素曝露と予後との関連」などの研究テーマについて、症例を追加したうえで解析を進めている。引き続き毎年2,000件以上の症例登録を継続し、社会復帰率向上に寄与する治療体制・集中治療の検討を進めていく予定である。心肺蘇生の質データの収集については、関係する消防機関と十分な調整を行いつつ、研究事務局・データモニタリング委員会によるデータモニタリングにより、データの質を担保する。米国アリゾナ大学の研究者等とミーティング (ウェブ会議を含む) を継続的に行い、研究の質のさらなる向上に努める。データマネージャーやダブルチェックを担当する研究者がデータの質を維持するとともに、現場の負担を軽減に努め、できるだけ症例登録しやすい環境を整え、症例数を確保する。毎年度末に消防機関が収集している病院前のデータとの連結、クリーニングを行い、院外心停止からの社会復帰に関係する要因を検討する。十分な症例数が確保できた段階で、心肺蘇生の質のデータに基づくフィードバック、院外心停止例の状況別の搬送先選定基準等、院外心停止症例に対する包括的治療ストラテジの検討を進める。すでに参加している消防機関以外の消防機関との協議も進め、心肺蘇生の質に関するデータベースの拡大も試みる。
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