研究課題
平成27年度は、「骨細胞におけるFGF23/klothoのオートクリン的フィードバック機構」というサブテーマを研究計画として実施した。研究代表者は、kl/klマウス(αklothoプロモーター領域の変異)、ならびに、近年開発されたαklotho-/-マウスが、血中低リン状態で異常が改善されるか明らかにするため、通常Ca/Pi餌、低Ca/Pi餌、低Ca/Pi餌+塩酸セベラマーを給餌したkl/klマウスとαklotho-/-マウスの歯槽骨の組織異常を解析した。その結果、通常Ca/Pi餌によるkl/klマウスとαklotho-/-マウスは、骨細胞の配列の乱れやDMP-1の過剰発現を示したが、低Ca/Pi餌、および、低Ca/Pi餌+塩酸セベラマーを給餌したkl/klマウスでは組織異常が回復し、野生型マウスと同様の歯槽骨を提示していた。ところが、αklotho-/-マウスでは、低Ca/Pi餌および低Ca/Pi餌+塩酸セベラマーを給餌しても、組織異常が回復せず、通常Ca/Pi餌を与えた群と同様の組織異常を示していた(これらマウスでは血中リン濃度が低下)。そこで、腎臓におけるαklothoおよびFGFR1cの発現を検索すると、低Ca/Pi餌(+塩酸セベラマー)群のkl/klマウスでは、αklothoの発現が上昇していたが、αklotho-/-マウスでは、αklothoの発現が認められないことが明らかとなった。このことは、骨細胞に対して、FGF23/klotho系が直接、作用している可能性を強く示唆している。以上、今回の結果から、リン濃度低下でαklotho発現が誘導される可能性、また、骨組織異常は、低リン状態でklotho産生が誘導されることで回復する可能性、つまり、骨細胞に対してFGF23/klothoのオートクリン的作用が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、「骨細胞におけるリン酸イオン供与システムとFGF23フィードバック機構」というテーマで研究を進めてゆくが、申請書の中で記載した通り、平成27年度では、平成26年度の基盤研究Bとの継続性を考えて、「骨細胞におけるFGF23のオートクリン作用」というin vivoにおけるFGF23フィードバック機構の解明を先行した。その結果、通常Ca/Pi餌によるkl/klマウスとαklotho-/-マウスは、骨細胞の配列の乱れやDMP-1の過剰発現を示したが、低Ca/Pi餌、および、低Ca/Pi餌+塩酸セベラマーを給餌したkl/klマウスでは組織異常が回復し、野生型マウスと同様の歯槽骨を提示すること、しかし、αklotho-/-マウスでは、低Ca/Pi餌および低Ca/Pi餌+塩酸セベラマーを給餌しても、組織異常が回復せず、通常Ca/Pi餌を与えた群と同様の組織異常を示すという結果に至った。さらに、低Ca/Pi餌および低Ca/Pi餌+塩酸セベラマーによるαklothoの発現が僅かでも、骨組織の異常が回復されることを突き止めている(kl/klマウスで誘導されたαklotho発現は、野生型マウスに比べて50%であった)。なお、平成28年度の研究は現在、論文投稿中である。また、研究実績の概要には記載しなかったが、TNAP(組織非特異型アルカリフォスファターゼ)とENPP1(ピロリン酸合成酵素)についても成果がでており、前骨芽細胞や骨芽細胞の細胞膜にTNAPの、一方、骨芽細胞と骨細胞の細胞膜と細胞内にENPP1の局在を検出することができた。このことは、骨細胞において、細胞内ENPP1の輸送にANKが関与する可能性があり、「骨細胞におけるリン酸イオン供与システム」の一端を解明しつつあると考えられる。
今後、「骨細胞におけるリン酸イオン供与システムとFGF23フィードバック機構」というテーマで研究を進めてゆくうえで、前半に、FGF23が骨細胞に、直接、フィードバック作用を行う可能性があるかを検索した。その結果、平成28年度の解析では、骨細胞に対してFGF23/klothoがオートクリン的に作用する可能性、また、骨細胞ではTNAPよりもENPP1がより強く発現していることが明らかとなった。一方、骨芽細胞は骨基質に埋めこまれると骨細胞に分化するが、その機能もダイナミックに変化すると考えられる。特に、石灰化に関しては、平成28年度の結果では、骨芽細胞とは逆に、ENPP1の発現上昇とTNAPの発現低下があげられる。以上の結果を踏まえると、klotho欠損状態では骨基質石灰化が著しい異常を示していたことから、FGF23/klothoシグナルが、骨細胞のTNAP、ENPP1, ANKの発現に影響を及ぼす可能性、また、骨芽細胞から骨細胞へ分化する段階で、石灰化に関する種々の膜輸送体・酵素の発現がON-OFFに切り替わる可能性が高く、また、骨細胞に分化した段階で発現するE11/gp38が、これら因子のON-OFFに関与するか解析する予定である。ただし、骨細胞は、骨芽細胞とは異なり、細胞膜からの基質小胞産生は認めず、骨小腔や骨細管内部での石灰化調節は、骨芽細胞とは異なることを踏まえて解析を進める。その計画の1つに、DMP-1 promoterを用いたTNAPまたはENPP1遺伝子過剰発現マウスを作製する予定であり、現在、DNAconstructを作成中である。
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HISTOLOGY AND HISTOPATHOLOGY
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.14670/HH-11-758
Journal of bone and mineral research
巻: 30 ページ: 1980-1993
10.1002/jbmr.2551
巻: 30 ページ: 77-85
10.14670/HH-30.77
http://www.den.hokudai.ac.jp/anatomy2/hokudai_d/index.html