研究課題
NOの骨代謝における役割は十分解明されていない。我々は、前年度までの本研究で、NOの新規セカンドメッセンジャーである8-nitro-cGMPが成長板の増殖軟骨細胞で作られ、増殖軟骨細胞の増殖を促進することで骨の伸長を促進することを明らかにした。さらに、骨芽細胞で生成した8-nitro-cGMPが細胞外マトリックスの石灰化を抑制することを見出している。本年度はまず、8-nitro-cGMPによる軟骨細胞の増殖にcGMP依存性キナーゼ(PKG)が関与するか否かを検討した。すでにcGMPの誘導体である8-Br-cGMPには軟骨細胞増殖促進作用がないことは確認していたが、今回、8-nitro-cGMPの軟骨細胞増殖促進作用がPKG阻害剤の影響を受けなかったことから、8-nitro-cGMPは、PKGに依存しない経路で細胞増殖を促進すると考えられた。8-nitro-cGMPによるタンパク質-S-グアニル化が免疫学的に検出されたことから、タンパク質-S-グアニル化を介したシグナル経路で軟骨細胞の増殖が促進された可能性がある。さらに、骨芽細胞でも、8-nitro-cGMPに依存したタンパク質-S-グアニル化が検出された。8-nitro-cGMPによるタンパク質-S-グアニル化を抑制するパースルフィドの産生酵素をノックダウンすると石灰化が抑制されたことからも、タンパク質-S-グアニル化が重要な役割を果たす可能性が高い。また、本年度から破骨細胞および骨細胞での8-nitro-cGMPの生成と機能を解析している。破骨細胞のみならずその前駆細胞であるマクロファージならびに骨基質中に存在し、骨代謝の中心的役割が示唆されている骨細胞でも8-nitro-cGMPの生成が確認された。さらに、化学合成した8-nitro-cGMPがRANKの発現を上昇させ、破骨細胞分化を促進することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
骨の形成および骨リモデリングにおける8-nitro-cGMPの役割を解明することが本研究の目的である。27年度および28年度の研究で、8-nitro-cGMPが骨・軟骨を構成する主要な細胞のすべて、すなわち、軟骨細胞、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞で生成されることを見出している。これらの細胞における8-nitro-cGMPの機能に関しても興味深い知見を得ている。すなわち、軟骨細胞では、8-nitro-cGMPがPKG非依存的に増殖を促進し、これにより骨の伸長を促進することを発見した。また、骨芽細胞において8-nitro-cGMPがタンパク質-S-グアニル化を介して石灰化を抑制する現象を見出している。骨細胞は骨リメデリングの司令塔的な役割を果たしていることが次第に明らかになって来ている細胞で、NOがその機能調節に関わることが示唆されている。我々は、今年度の研究で、骨細胞が8-nitro-cGMPを生成していることを見出した。さらに、破骨細胞分化が8-nitro-cGMPによって促進されることを明らかにしており、その機序としてRANKの発現促進が関与することが示唆された。今後、骨細胞における機能が明らかになれば、骨の形成および骨リモデリングにおける8-nitro-cGMPの役割の全貌が明らかになると考えられる。
骨芽細胞における8-nitro-cGMPによる石灰化抑制および破骨細胞の分化促進のメカニズムを明らかにする研究を進めたい。骨芽細胞に関しては、タンパク質-S-グアニル化が石灰化抑制に重要な役割を果たしていることが示唆されているので、グアニル化されたタンパク質の同定を目指す。現在、二次元電気泳動およびWestern blottingによりS-グアニル化タンパク質の検出を試みている。検出されたS-グアニル化タンパク質をペプチド断片化した後に質量分析することでタンパク質を同定し、石灰化抑制機序を解明したい。破骨細胞分化促進作用については、RANK発現の上昇機序を解明するため、RANKの上流のシグナル解析を進める予定である。この場合もタンパク質-S-グアニル化が重要な役割を果たす可能性があるので、その解析を行う予定である。骨細胞は、骨芽細胞分化抑制因子であるスクレロスチンおよび破骨細胞分化誘導因子であるRANKLを発現し、骨のリモデリングを調節する。そこで、骨細胞における8-nitro-cGMPの機能に関して、今後は、スクレロスチンおよびRANKLの発現調節の視点から解析していきたい。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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