研究課題
高齢化社会の到来と耐性菌感染症の増加に伴い,誤嚥性肺炎を含む肺炎が増大・重症化する傾向にあり,毎年12万人もの死者を出すに至っている.ついに平成24年度より,日本人の死因第3位が肺炎となった.したがって,高齢者に好発する呼吸器感染症を予防することは喫緊の課題であるといえる.しかし,口腔,鼻腔,上下気道を介して発症する肺炎は,医歯学の境界領域の感染症であり,医学基礎領域においてはほとんど研究されていない.また,肺炎起因菌(黄色ブドウ球菌,緑膿菌,肺炎球菌)は,薬剤耐性化が進行し,治療がより困難になっている.そこで,本研究では,肺炎起因菌を感染させた肺炎モデルマウスに対する機能性糖脂質の効果に関する実証研究を行い,不必要な抗生物質投与を行わない,新たな肺炎の予防法を探索することを目的とした.研究代表者は,単一の化合物として免疫活性化作用を示す糖脂質トレハロース-6,6-ジミコレートに着目し,これをリード化合物とすることで,効果的な免疫療法薬の開発を目指してきた.そして,これまでに200種に迫る類縁体を合成して構造活性相関研究を行い,構造の単純化と作用の増強に成功した機能性糖脂質(ビザンチン)を合成した.昨年度までに,ビザンチンを好中球に作用させることにより細胞外捕獲網(NETs)を形成することを明らかにし,形成されたNETsに肺炎球菌や緑膿菌が捕獲され,増殖が抑制されていることを明らかにしてきた.本年度は,新たに開発した水溶性ビザンチンの肺炎起因菌に対する作用についてインビトロおよびインビボ解析を行い,TLR4の複合受容体,およびC型レクチン受容体に作用していること,さらに肺炎モデルマウスに対して予防効果を示すことが判明した.
2: おおむね順調に進展している
本年度は,昨年度までに開発した水溶性ビザンチンを用いて解析した.水溶性ビザンチンの受容体を明らかにするため,Toll様受容体とC型レクチンに注目し,siRNAや阻害剤を用いて解析した結果,TLR4,Mincle,Dectin-2が受容体候補であることが判明した.トレハロース部位がC型レクチン,そして脂肪酸側鎖部位がTLR4に作用していると考える.また,水溶性ビザンチンは,好中球細胞外捕獲網(NETs)に加えて,マクロファージ細胞外捕獲網(METs)の形成を誘導すること,加えて,このMETsの核酸分子の多くは,ミトコンドリア由来であることを明らかにした.さらに,マイクロスプレイヤーを用いた肺炎球菌感染モデルの作製に成功し,水溶性ビザンチンが本モデルマウスに対して予防効果を示すことを確認した.動物実験に関しては,今後の詳細解析が必要であるが,研究課題の達成へ向けて,順調に進展していると考える.
昨年までの解析により,約200種類に迫る候補化合物の中で最もバランスの良い免疫賦活作用を有する水溶性ビザンチンを見出すことに成功した.そこで,最終年度は,肺炎起因菌感染モデルマウスに対する水溶性ビザンチンの予防および治療効果を調べるため,以下の項目について解析する.(1)マイクロスプレイヤーを用いて肺炎起因菌(黄色ブドウ球菌,緑膿菌,肺炎球菌)をマウスに肺感染させ,肺炎インデックスを肉眼的,組織学的に確認し,菌の投与量を設定する. (2) (1)の感染モデルに対する水溶性ビザンチンの予防あるいは治療効果について以下の解析を行う.予防に関する実験では,水溶性ビザンチンを週2回,2週間尾静脈投与したマウスを作製する.一方,治療に関する実験では,肺炎起因菌を投与1日後,水溶性ビザンチンを尾静脈内投与する.各マウスの肺炎インデックス,致死時間,炎症性サイトカイン遊離量を測定し,水溶性ビザンチンの効果を評価する.(3)水溶性ビザンチンをマウスへ長期間(週二回,一カ月)経口投与,あるいは静脈内投与した時の各臓器の炎症反応などについて組織化学的解析や血清学的解析を行い,本化合物のインビボにおける安全性についても評価する.
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