研究実績の概要 |
天然歯や口腔インプラント義歯の長期予後を左右する重要な因子の1つに,歯頚部周囲に十分な幅で存在する角化した「付着歯肉」があげられる.しかしながら,現在の歯科臨床においては,歯やインプラント埋入部位周囲に角化した付着歯肉もしくは周囲粘膜の幅が不足する場合には外科的対応が必要となり,侵襲の大きさ等の問題からより簡便かつ確実な付着歯肉獲得法の開発が望まれている.本研究では,付着歯肉組織に存在する細胞群が付着歯肉構成細胞へと分化,成熟していくメカニズムを解明し,その機序を人工的に誘導することで,歯槽粘膜を構成する細胞や,未分化な細胞を直接的に付着歯肉に分化誘導し,付着歯肉を獲得する基盤技術の開発を目指す.具体的には,付着歯肉の獲得,維持に関与するタンパク質群,組織特異的キー遺伝子を網羅的に解析し,その作用機序を明らかとした上で, 歯槽粘膜の付着歯肉化を図る事を目的としている.そのために,付着歯肉の形成,維持を制御するタンパク質群を同定し,それらのタンパク質群を産生する細胞種を明らかにする必要がある.まず,ラミニン332が上皮細胞の角化に関与していることを突きとめ,そのメカニズムを詳細に検討した結果,角化粘膜下と非角化粘膜下では結合組織内の間葉細胞の性質が大きく異なること,またこれらの間葉細胞の性質の違いが角化粘膜と非角化粘膜のラミニン332の発現の相違をもたらすことで,口腔粘膜上皮の角化を制御していることが培養実験において明らかとなった.これらの知見に加え,今年度はラミニン332以外に,歯肉の角化に関わる基底膜分子として4型コラーゲン556鎖を同定した.実際,本ノックアウトマウスにおいて歯肉の角化が抑制されていることを確認した.更に,基底膜分子の一つである18型コラーゲンも非角化歯肉と比較し,角化歯肉において高発現していることを突き詰めた.
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