研究課題/領域番号 |
15H05046
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
中原 貴 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (10366768)
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研究分担者 |
井出 吉昭 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (70409225)
石川 博 日本歯科大学, 生命歯学部, 客員教授 (30089784)
橋本 尚詞 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (80189498)
立花 利公 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (80163476)
富永 徳子 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (90546532)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歯学 / 細胞・組織 / 再生医学 / 移植・再生医療 / 発生・分化 / 多能性幹細胞 / エナメル芽細胞 / エナメル形成 |
研究実績の概要 |
本研究は、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を安全に医療応用するための新たな培養システムの開発を目的とする。その手法は、多能性幹細胞を用いて、懸滴培養から灌流培養に移行する新規培養システムによって器官培養を行う。それによって三胚葉性組織で構成された胚子様モンスターを作製し、同組織に存在する歯胚原基からエナメル質形成細胞の分離を行い、将来のバイオエナメル(再生エナメル質)の創製に供することを目指している。 本手法は、三胚葉性胚子様モンスターを体外で作出することができ、同モンスターが多能性幹細胞に由来する組織でありながら、腫瘍化・がん化を生じることがない新しい培養技術である。これまでに、懸滴培養による胚様体形成から灌流培養に移行する一連の培養システムの再検証を行い、より確実に胚子様モンスターの形成ができる培養プロトコールの改良を図ってきた。 また、エナメル質の形成を担うエナメル芽細胞の特異的なキャラクターの解析のため、in vitroにおける安定的な細胞材料を得ることを目的とした細胞株の樹立を進めている。昨年度には、ミニブタ胎仔歯胚の初代培養を通じて、エナメル上皮組織に由来する上皮細胞の分離と同定を報告した(In Vitro Cell Dev Biol Anim 2016)。 さらに、エナメル形成には必須のイベントとなる上皮-間葉相互作用を実験的に再現するため、抜去歯より得た歯性間葉系幹細胞のキャラクターの解析を行い、ユニークな幹細胞特性を明らかにした(Stem Cells Dev 2017, Hum Cell 2017)。 以上のように、多能性幹細胞からのエナメル質形成細胞の三胚葉性組織内誘導と同細胞の分離培養、さらにエナメル芽細胞株と歯性間葉系幹細胞を活用したバイオエナメルの創製法の確立に向けた研究開発を着実に進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多能性幹細胞を用いたエナメル質形成細胞の新たな分化誘導法と同細胞株の樹立には、懸滴培養による胚様体の形成を第一段階とし、次いで灌流培養による胚子様モンスターの形成に移行する極めて高度な培養技術を要する。したがって、細胞株のロット差や培養条件に影響されない胚様体の形成および胚子様モンスターの作出を可能とするため、一連の新規器官培養システムの再検証と培養法の改変を進めている。 また、多能性幹細胞からエナメル質形成細胞の分化誘導と細胞分離が奏功した場合、次は同細胞を用いたバイオエナメルの形成法が必要となる。われわれは、ミニブタ胎仔歯胚由来のエナメル芽細胞の分離に成功しており、ヒトに準ずる高等哺乳類に属する細胞株は、バイオエナメルの形成に貴重な示唆を与えることが期待される。 さらに昨年度は、抜去歯から得られる複数の歯性間葉系幹細胞(dental MSCs)の分離培養を行い、異なる幹細胞種とそれらの初代培養法を変えることによって、採取組織の発生学的起源を反映したユニークな硬組織形成能を示す幹細胞特性を明らかにした。くわえて、再生医療には不適といわれるウシ胎仔血清(FBS)の使用を回避するため、近年のFBSを含有しない無血清培養液の開発を背景としたdental MSCsの幹細胞特性について、実践的な細胞培養法の確立に貢献する知見を報告した。 以上の論文発表に基づき、in vitroにおけるバイオエナメルの創製は、高等動物の安定なエナメル芽細胞株の樹立に合わせて、ユニークな硬組織形成能を有するdental MSCsとの共培養を主体とした上皮-間葉相互作用の試験的な再現実験を実施する研究材料が整ってきた。さらに、再生医療を想定したFBS不使用の培養環境を構築する準備も進めている。以上の進捗状況を踏まえて、本研究課題の自己点検による評価は、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
われわれが有する新規器官培養システムの詳細な再検証において、灌流培養後に作出される胚子様モンスターのさらなる形成効率と組織内分化の向上を図るためには、器官培養の第一段階となる懸滴培養による高度な胚様体形成が必須であると考えている。そのため、多能性幹細胞の培養維持と胚様体形成に供する時期の検討、さらに懸滴培養の具体的な方法について、さらなるプロトコールの検証と改良を推進していく。 また、ミニブタ胎仔歯胚由来のエナメル芽細胞株では、順調に継代培養を継続できる安定細胞株として培養維持が可能となっている。そのため、今年度もアメロブラスチンやアメロゲニンなどのエナメルマトリックスタンパクの産生・分泌に加えて、同細胞の特性であるグリコーゲンの蓄積についても、細胞分化と石灰化形成における両者の関連性について解析を進める予定である。 さらに、発生学的観点に基づけば、バイオエナメルの創製のためには、エナメル形成における重要なイベントとして上皮-間葉相互作用が重要な役割を担うことが考えられる。そこで昨年度は、抜去歯に由来する複数の歯性間葉系幹細胞(dental MSCs)の分離と同定を行い、初代培養法に基づいたユニークな幹細胞特性を見出している。そのため今年度は、上皮-間葉相互作用をin vitroで実験的に再現するための具体的な共培養システムの検討を進める予定である。 最終年度における上記の研究計画を進めるため、継続して細胞培養および器官培養は富永徳子助教と石川博客員教授が行い、培養組織や形成組織のエックス線学的解析は井出吉昭講師、病理組織学的解析は橋本尚詞教授、微細形態解析は立花利公教授、遺伝子発現解析および研究統括は研究代表者が行う。
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