研究課題/領域番号 |
15H05050
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
吉田 教明 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (40230750)
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研究分担者 |
古賀 義之 長崎大学, 病院(歯学系), 講師 (50175329)
中村 文 長崎大学, 病院(歯学系), 医員 (50711959)
藤下 あゆみ 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 特任研究員 (30755723)
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 咀嚼 / 嚥下 / 顎運動 / 筋活動 / 神経伝達物質 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、神経伝達物質が特に咀嚼運動の制御ならびに咀嚼リズム形成にどのような影響を及ぼすかについて検討した。本実験に先立ち、顎運動計測システムを改良した。これまでの磁気センサを用いた3次元顎運動計測装置では、下顎骨に装着した磁石を計測点とする、1点3次元運動の記録に限定されたものであり、下顎骨上の任意の点における多点3次元運動を同時に解析することができなかった。そこで、モーションキャプチャーを応用した光学式6自由度顎運動計測システムを開発した。これにより、下顎頭の滑走運動や臼歯部における食物の粉砕臼磨運動など、高精度多点同時計測が可能となった。 GABA神経伝達系の異常が咀嚼運動制御に障害を引き起こすという仮説を検証するために、脳室内投与による実験を試みた。われわれのこれまでの遺伝子改変マウスを用いた研究では、GABAA受容体の膜発現率の上昇を特徴とするマウスを対象として、咀嚼時の自由運動下における顎運動ならびに筋活動を記録したが、基本的な運動パターンは健常マウスと比較して、咀嚼運動の軌跡や咀嚼リズムに優位な有意な差が認められなかった。健常マウスを対象として、GABA作動薬のムシモールを脳室内投与した場合には、咀嚼リズムに変調が認められる可能性が示唆された。一方、GABA拮抗薬のビククリンを投与した場合には、摂食抑制が生じ、かなりの時間が経過してからの運動記録となったため、咀嚼リズムに変調は認められなかった。今後、投与後短時間で記録ができるよう対応策を検討する必要がある。過去の研究において、ヘテロノックアウトマウスを用いた場合には、ホモ接合体と野生型の中間的な表現型を示したため、予想していた咀嚼リズムへの影響はみられなかったが、健常マウス脳室に直接投与した際には、GABA神経伝達の異常が脳幹に存在する咀嚼中枢にも作用し、咀嚼リズム形成機構に変調をおこしたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小動物を対象に高精度多点同時計測が可能な顎運動測定システムを確立した。光学的システムのため、頭部を固定する必用があるものの、固定座標系の下で、顎運動の各パラメータを同一条件で記録でき、異なる薬剤投与の影響を正確に比較、検討することが可能となった。脳室内投与の実験系も確立し、今後様々な神経伝達物質を用いて、咀嚼および嚥下運動制御に及ぼす影響を解明する準備が整備された。
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今後の研究の推進方策 |
今後、軟性飼料や硬性飼料を与えた場合の、末梢感覚器からのフィードバックの影響を解析していきたい。それにより、GABA 神経伝達系の異常が咀嚼運動制御に障害を引き起こす可能性について検討したい。三叉神経中脳路核や大脳基底核への薬剤投与など、投与部位を限定していくことが咀嚼・嚥下運動の発現と制御にどのような影響を及ぼすかを検討する。 また、ドーパミンの脳室内投与が嚥下誘発に及ぼす影響を解明するための実験系を構築し、解析を進めていきたい。さらに、セロトニン、オキシトシン、オレキシンなど他の神経伝達物質の受容体に作用する薬剤が咀嚼・嚥下機能の制御に及ぼす影響も同時に検討し、咀嚼障害や嚥下障害が発症するメカニズムを解明し、治療法を開発する。
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