研究課題/領域番号 |
15H05055
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 温 東北大学, 大学病院, 助教 (50333828)
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研究分担者 |
木野 康志 東北大学, 理学研究科, 准教授 (00272005)
千葉 美麗 東北大学, 歯学研究科, 講師 (10236820)
清水 良央 東北大学, 歯学研究科, 助教 (30302152)
小坂 健 東北大学, 歯学研究科, 教授 (60300935)
鈴木 敏彦 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (70261518)
岡 壽崇 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 助教 (70339745)
篠田 壽 東北大学, 歯学研究科, 名誉教授 (80014025)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 福島第一原発事故 / 放射性ストロンチウム / 放射性セシウム / 歯 / イメージングプレート |
研究実績の概要 |
前年度までの検討で、イメージングプレート(IP)のシグナル強度(QL値)を指標として個々の歯の放射線強度を測定する方法を確立した。本年度は福島第一原発事故に主眼を置いて、福島第一原発事故より前に形成された歯を対象としてIPにおけるQL値の測定を行い、福島県とそれ以外の地域、あるいは福島県内において都市間における違いがあるのか否かについて解析し本法の有用性を検討した。 2011年3月の時点で歯冠形成が終了していると考えられる歯を抽出し、それらのQL値を測定した結果、福島県の歯におけるQL値は1148.3±77.7(平均値±標準偏差、n=4131)福島県外の歯におけるQL値は1159.5±73.6(n=827)であった。外れ値の範囲を平均値±3標準偏差とした場合、その範囲から外れた値の割合は、福島県で0.39%、福島県外で0.48%であった。標準正規分布における確率密度関数において無作為抽出標本が平均値±3SDの区間に入る確率は99.73%であり外れ値となる確率0.27%であることから、本測定で得られた結果は何かしらの背景があることが示唆されるもののスクリーニングとしては妥当と考えられた。これらの外れ値は福島県、福島県外双方で同程度の頻度で認められ、それらを個々に精査すると、それらの歯はIPに面した歯面に充填などの何らかの処置がなされていることが判明した。つまり、福島県の内外に関係なく平均値±3標準偏差から外れてくる歯が一定数あり、それらの歯には修復などを認め、歯の形成の影響とは本質的に無関係である可能性を考慮する必要がある。これらの事実から、スクリーニングにおいてIP面に修復などがある歯については修復材料の影響を視野に入れて検討する必要があること、系統的な検討時はIP面が健全な歯を抽出して実施したほうが望ましいことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画は歯質中に含まれる放射性物質の種類を福島第一原発事故によるSr-90、Cs-134、Cs-137、過去の大気圏核実験や原子力災害により発生したSr-90および生体内に広く存在するK-40を対象として検討し、イメージングプレートによるスクリーニングで大まかな放射性物質濃度とその構成割合をシミュレートするものであった。しかしその後の検討で福島第一原発事故前に形成された歯において、Sr-90とK-40の存在が確認されたが、それらのみでは説明できない歯が存在することも明らかとなり、低バックグラウンドにおける高感度ゲルマニウム検出器によるガンマ線の測定において、普遍的に自然界に存在するラジウム系列などの崩壊系列の娘核種が含有されることが判明したがイメージングプレートの特性上それらを同定することは困難であることも確認された。一方で、イメージングプレートのQL値を指標に個々の歯に含まれる放射線強度を非破壊でスクリーニングする方法は確立し、本方法で既知濃度のK-40における検討したところ、十分な精度でQL値を計測できることを確認した。昨年度までに、本方法で福島第一原発事故前に形成された歯およそ5,000本をスクリーニングし、QL値の平均値±3標準偏差に全体の99.5%以上の歯が含まれ、上記の自然放射能の影響や事故前の人工核種の影響などを総合的に包括した結果として福島事故前の歯の分布を十分なサンプル量のもと確認することができた。さらに外れ値の検討を行い、それらの理由も説明付けられた。これらの経緯から本研究で開発した方法は歯の放射線強度を非破壊で比較的簡単に測定できるスクリーニング法として妥当な方法であると考えられた。平成30年度における検討では原発事故後に形成された歯が収集できる時期であるため事故後の歯を主体にスクリーニングを行い、それをもって本研究課題を完遂する。
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今後の研究の推進方策 |
事故前形成の歯についてはQL値の分布がほぼ明らかになり、イメージングプレートに面する歯面における修復や齲蝕がQL値に影響を与えることが判明したが、それらの影響を除いた場合のQL値の分布を求め、より精度の高い事故前形成の歯の分布を明らかにするとともに疫学的な解析を行いどのような因子がQL値に影響を与えるのかを明らかにする。福島事故後の最大の関心事の一つは放出された放射性物質が生体に取り込まれたとしてどのような種類の放射性物質がどの程度の量取り込まれたのかを明らかにすることである。Sr-90は歯に親和性があることが知られているためこの特性を生かしてSr-90の検討を端緒にして取り込みを明らかにすることが本研究の一つのゴールであるが、そのためには事故前形成の歯において詳細な検討を加えておく必要がある。それらを明らかにしたのちに福島事故後の歯を検討し、その分布がどのように変化したかによって福島第一原発事故の影響を歯から捉えることができるのか否かを判断することができる。分布に影響がないのであれば少なくとも本方法においては歯から福島第一原発事故の影響を捉えることが困難であるが、分布に変化があるならば次の段階としてより詳細な検討を行う必要がある。その場合は歯におけるSr-90の取り込み(場合によってはCs-137の取り込みも)から、ほかの臓器におけるSr-90、Cs-137およびCs-134濃度を推定するアルゴリズムを確立すること、さらに歯以外の臓器は代謝による影響を受け続けるため、生体内半減期や新たな放射性物質の蓄積などを考慮した上で内部被ばく量を推測すること、それが困難であればカットオフ値を求めるなどして、歯から個体への影響を包括的に判断するための方法として確立することを目指す。
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