研究実績の概要 |
本研究の目的は,既に論文発表をした歯科保健と要介護,認知症,転倒との関連を,自治体を増やした大規模データで確認し,結果を一般化すること,歯科保健から要介護,認知症,転倒への経路における歯科保健行動や社会的背景要因の影響を検討することである。特に,因果推論を強くするために3時点データを用いる。 今年度は予定どおりに,16自治体から提供された要介護認定と認知症のデータから,11,915名の2010-2013パネル-2016コホートデータを作成した。そして2010~2013年の歯数や義歯使用の変化と要介護および認知症との関連を検討した。その結果,歯数減少者は20歯以上の者よりも,性,年齢,BMI,主観的健康感,治療中疾患,喫煙,飲酒,歩行時間,所得,人口密度を調整しても,要介護リスクが有意に高くなった。また,歯数減少者は20歯以上の者よりも,性,年齢,教育歴,所得,BMI,治療中疾患,喫煙,飲酒,歩行時間,物忘れ,人口密度を調整しても,認知症リスクが有意に高くなった。義歯の変化は要介護及び認知症と有意な関連はなかった。歯科保健行動(歯科受診,歯間部清掃具使用,フッ化物配合歯磨剤使用)や歯科医師密度の影響もなかった。 また,19自治体の7,895名の2010-2013-2016年の3時点パネルデータを作成し,2010年と2013年に転倒歴のない4,607名を対象に,2010~2013年の歯数や義歯使用の変化と2016年における転倒との関連を検討した。その結果,年齢,教育歴,所得,抑うつ,主観的健康感,IADL,BMI,転倒関連疾患,社会参加,歩行時間,飲酒,人口密度を調整しても,歯数や義歯使用の変化と転倒との間には有意な関連はなかった。歯科保健行動や歯科医師密度の影響もなかった。 以上,3時点の大規模調査によって,歯科保健の悪化は要介護や認知症に先行し,リスク因子となることが示唆された。
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