研究課題/領域番号 |
15H05060
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
沢 禎彦 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (70271666)
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研究分担者 |
加藤 幸成 東北大学, 医学系研究科, 教授 (00571811)
畠山 雄次 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 准教授 (40302161)
坂上 竜資 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (50215612)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖尿病性腎症 / Porphyromonas gingivalis / 終末糖化産物 / toll-like receptor / 糸球体内皮細胞 / TGF-β / I型コラーゲン / 糖尿病マウス |
研究実績の概要 |
TLR2はグラム陽性菌成分、TLR4はグラム陰性菌成分lipopolysaccharide (LPS)を認識してTLR発現細胞にサイトカイン産生を誘導する。歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis由来LPSを定期的に微量投与した糖尿病マウスは腎症を合併し、糸球体血管に炎症性サイトカイン産生およびメサンギウム細胞にコラーゲン産生を促すTGF-βの産生、メサンギウムにおける大量のコラーゲンの蓄積、強い蛋白尿、血清検査でのクレアチニンと尿素窒素異常が観察され、これらは同様のLPS投与を行った健常マウスで見られないこと、すなわち歯周病原細菌が糖尿病において腎症を誘発する可能性を示唆する研究成果が得られた。さらにTLR4ブロッカーであるeritoranとP. gingivalis由来LPSを同時投与した糖尿病マウスは、腎症の発症が有意に阻止されたが、生命予後の改善は見られなかったことから、免疫学的に易感染性である糖尿病患者の長期にわたるP. gingivalisの感染は、感作白血球による腸内バクテリアに対する免疫を引き起こし、腸内バクテリアが破壊されて生じたTLRリガンドが循環系に入ることで全身性のサイトカインストームと敗血症を招来させることが考えられ、糖尿病患者における歯周病の予防と治療は腎症の発症の予防のみならず、生命予後の延長に有効である可能性が示された (Kajiwara, K., Sawa, Y. Porphyromonas Gingivalis lipopolysaccharide promote diabetic nephropathy through TLR2. 94th International Association of Dental Research, Seoul, JUN 2016. J. Dent. Res. 94(S).)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度以降の当初研究計画は、1.口腔微生物由来TLRリガンドによる糖尿病性腎症の発症機構の解明については、平成28年度計画の1)糖尿病モデルマウスを応用したin vivo解析に引きつづき、2)培養細胞を応用したin vitro解析で、(1)腎糸球体内皮細胞、臍静脈・大動脈内皮細胞を用いる。種々のAGEによるAGE受容体依存性TLR2・4の発現、TGF-βとI型・IV型コラーゲンの産生の証明、および(2)TLRリガンドによるTLRシグナル伝達の活性化、またTLR拮抗剤Eritoran (Eisai Inc.USA)、および抗TLR抗体による培養細胞のTLRリガンド依存性シグナル伝達活性化に対するブロッキング効果の証明をすべて終了し、現在、投稿中である。また、2.口腔微生物由来TLRリガンド投与糖尿病マウスに対するTLR阻害による腎症予防効果の解析については、I型・II型糖尿病モデルマウスのTLRリガンドおよびTLRリガンド+Eritoran投与群の1)統計学的生命予後解析ならびに2)腎糸球体組織解析および血清・尿・組織検査によって、TLR阻害による腎症の予防効果を証明し、現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の当初研究計画は、3.歯周疾患を有する糖尿病患者の腎症合併率に関する疫学的解析と腎症の予防への展開である。進捗は順調で、現在、福岡の11の透析センターとの連携により、糖尿病患者の歯周疾患の程度と腎症合併率の関係を、多重変量解析・ロジスティック解析で行っており、歯周疾患が糖尿病患者に腎症を引き起こす相対危険度とこれに影響を与える年齢、性、喫煙等の交絡因子を調べている。終了後は、糖尿病患者の腎症合併率について口腔衛生のコントロールを交絡因子とする前向きコホート調査を開始し、糖尿病患者の平均的腎症合併率と比較したデータを学会とプレスリリースにて国民に発信する。 上記したように、糖尿病性腎症がTLR2を主要経路とすることが分かったが、新たな事柄として、糖尿病性腎症の糸球体内皮におけるTLR2の発現にSTAT3が関与することが分かった(投稿中)。そこで、AGEが糸球体内皮細胞にAGE受容体を介してSTAT3リン酸化を促進する経路について検討を開始した。それがわかれば、STAT3阻害によるTLR2発現抑制、ひいては腎症の抑制につながることが考えられ、現在その研究も開始している。
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