研究課題/領域番号 |
15H05112
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山室 真澄 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (80344208)
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研究分担者 |
田邊 優貴子 国立極地研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (40550752)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイカル湖 / 共生海綿 / 富栄養化 / 安定同位体比 / 底生緑藻 |
研究実績の概要 |
今年度は予定しいていた通り、LISBRASのTimoshkin氏を招聘し、1990年代にTimoshkin氏と共同研究をしていた和田英太郞京都大学名誉教授、連携研究者の石井励一郎准教授(総合地球環境学研究所)とともに、当時のサンプルやデータの整理を行った。この結果、1990年代に分析されたものの未公表になっていた底生動物の安定同位体比データが発見された。 研究代表者が昨年行った予備調査で採取した共生海綿の炭素・窒素濃度と炭素・窒素安定同位体比分析はほぼ完了した。また同時に採取した植物(維管束植物、底生藻類)や海綿以外の底生動物(渦虫類、貝類など)の分析もほぼ完了した。一方、今年度になってバイカル湖固有の共生海綿が藍藻類などにおおわれて大量死する現象が湖内の広い範囲で観察されるようになった。また底生緑藻類の大量繁茂や貝類の大量死など、これまでのバイカル湖に見られなかった異変が顕著になってきた。このため今年度は特に異変が目立った地域を中心にサンプリングを行った。 さらに、他のバイカル湖研究者と共同で現在のバイカル湖の状態を国際誌で公表した。また、現状の異変が富栄養化による可能性を考慮し、当初予定していなかった共生海綿のリン濃度も分析も行った。現在、以上の安定同位体比と窒素・リン濃度の解析を進めている。また外部機関に残りのサンプルを送り、化学物質が検出されるかどうか結果の報告待ちである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はバイカル湖で富栄養化が進んでいる可能性を検討するために、1990年代に日本人チームが中心になって行われた、生物の窒素安定同位体比データを発掘し、同種の現在の窒素安定同位体比と比較して、富栄養化が進んでいるかどうかを明らかにする予定であった。しかし研究代表者が予備的なサンプリングを行った2014年7月以降に、バイカル湖の複数の沿岸域で、貧栄養状態に適応していると考えられる共生海綿の大量死が起こった。このため2014年7月のデータは大量死直前の貴重なサンプルとなった。また海綿の大量死とともに底生緑藻の繁茂も拡大し、危惧していた富栄養化が顕在化している可能性が極めて高くなった。 今年度は予定していた過去のデータの発掘にも成功したため、過去の現在の比較は確実に行えることとなった上に、作業仮説であったバイカル湖における富栄養化についても、進行している可能性が極めて高くなった。
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今後の研究の推進方策 |
富栄養化の影響を危惧してスタートした本研究であったが、研究所年度に富栄養化が強く疑われる異変が一気に顕在化した。このため、安定同位体比の変化から富栄養化の兆候を解明するというスタンスから、なぜ水質自体に大きな変化がないのに、緑藻の大量繁茂や貧栄養に適した共生海綿の大量死が急激に進行したかの解明や、刻々と変化する現状の記録に重点を置いた研究を展開する。また同様の緑藻の繁茂が世界の他の大湖沼でも進んでいるとの情報があるため、世界の大湖沼において今何が起こっているかの情報交換を積極的に行いながら、世界規模の現象とバイカル湖固有の現象とを峻別して、それぞれに適した原因究明を行う。 サンプリング対象は、当初は沖合の生物も対象にしていたが、今回の異変が沿岸域に限ることから、来年度は引き続き沿岸行きを中心とし、機会があれば沖合のサンプルも入手することとする。また水柱での栄養塩濃度について研究協力機関にデータ提供を依頼する。 今年度発見された1990年代の底生動物試料の解析結果については、来年度に検討を行い、今年度の分析結果と比較して、どのような傾向が認められるかを明らかにする。また1990年代のバイカル湖調査に参加した日本人研究者にサンプルの有無を問い合わせ、残っていたら当時分析されていなかったリン濃度を分析し、現在の同種の濃度と比較を行う。
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