本研究の目的は、トルコ東部に位置し強塩基性と異常に高いアルカリ度を示す塩湖であるワン湖において、物理学・化学・生物学にわたる湖の特徴的陸水科学過程を解明し、同湖の保全に資する知見を得ることにある。 平成27年度には、同28年3月にワン湖で物理学・化学・生物学にわたる総合陸水科学調査を行った。しかし、同年7月にアンカラやイスタンブールでクーデター未遂、ワンで爆発テロ事件などが発生し、トルコの治安が急激に悪化した。このため同28年度はワン湖の調査を断念し、キルギス・イシククル湖に研究対象を変更した。イシククル湖は、ワン湖ほどには塩基性もアルカリ度も高くはないが、水深が400 mを超える巨大塩湖であるので、当初の予定とほぼ同様の研究が行えるからである。この変更は申請時の研究計画調書にも記載していた。 同29年度になってもトルコの治安はさほどには回復しなかった。このため今年度もイシククル湖での研究を行った。 8月18日から9月4日にかけて、キルギスに渡航した。イシククル湖では横断観測を含む計8地点で、河川と地下水については計6地点で調査を行った。湖では全ての観測地点で多項目水質計による鉛直方向の水質変動(水温、電気伝導度、溶存酸素濃度等)を測定し、水質断面図の取得に成功した。その結果、湖環流の存在が明らかになった。クロロフィル極大が湖の中層に存在するという特異的傾向にあることも分かった。湖水・河川水・地下水を採取し、日本に持ち帰った。現在、この試料の化学分析と生物群集解析を行っている。 ワン湖での研究成果の一部が、"Distribution of trace elements and the influence of major ion water chemistry in saline lakes"の題目でLimnology and Oceanography 誌に掲載された。
|