研究課題/領域番号 |
15H05120
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
川上 智規 富山県立大学, 工学部, 教授 (10249146)
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研究分担者 |
平 久美子 東京女子医科大学, 医学部, 非常勤講師 (10163148)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水質汚濁・土壌汚染防止・浄化 / フッ素 / 腎臓病 / ネオニコチノイド / スリランカ / 電解法 |
研究実績の概要 |
原因不明の慢性腎臓病(CKDu)が多発しているスリランカの北部中央州アヌラーダプラにおいて、電解法によるフッ素除去プラントを稼働した。処理量は450L/日であり、要求される水量の約1/4であるが、電解だけでフッ素濃度は2.1mg/Lから0.4mg/L程度にまで低下させることができている。電解法の後段に設置した鳥骨炭フィルターを通じた後は0mg/Lである。現地の水不足や、送液ポンプの不調などトラブルもあったが、新たな水源井戸から送液を開始するなど、問題は解決され、運転を継続している。この処理装置は5つのコミュニティに水を供給するものであるが、各コミュニティの長をはじめ、住民説明会を実施し、装置のメンテナンスを依頼した。また、アヌラーダプラにキャンパスのあるラジャラタ大学で処理水のフッ素濃度の分析を行う体制を整えた。 鳥骨炭を用いたフッ素除去フィルターはスリランカ南部のゴールに新たに1基を設置し運転を開始した。装置のメンテナンスならびにサンプリングやデータ解析の一部をルフナ大学と共同で実施している。 飲料水中の農薬に関しては、CKDu患者のいる家庭を中心に15検体を採取し、ネオニコチノイドを含む245種類をスクリーニングしたが、検出されたものはなかった。玄米に関してもCKDu患者のいる家庭を中心に20検体を採取し9種類の残留ネオニコチノイドを測定したが検出されなかった。しかしながら、農薬販売店における調査では、殺虫剤としてはイミダクロプリドが最もよく使用されているとの情報を得た。また、CKDu患者を含む約100名の尿を分析した結果、CKDu患者ではL-FABP濃度が高く、非CKDu患者とは有意な差があった。L-FABPの高い尿からはネオニコチノイドの代謝物が検出された。インタビューの結果、CKDu患者の症状はネオニコチノイド中毒による症状と矛盾することはなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、スリランカの北部中央州のCKDu多発地域のアヌラーダプラにおいて、電解法によるフッ素除去プラントを稼働することができ、住民説明会も開催することができた。尿の分析に関しては、CKDu多発地帯と非発生地域からサンプルを採取した。一部の患者からネオニコチノイドの代謝物が検出されるなど予想通りの結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
CKDu多発地域のアヌラーダプラにおいて運転を開始した、電解法によるフッ素除去プラントに関しては運転を継続し、長期運転における課題を抽出し解決を図る。特に、沈殿の生成による隔膜の目詰まり対策として、定期的に陽極と陰極を入れ替えて運転することを考えているが、その必要性の有無や、必要であるなら、その頻度を確認する。これまでは電解法のみでフッ素除去の目標値を達成していることから、現在後段に設置している鳥骨炭フィルターの必要性の有無を長期運転のデータをもとに検証する。 スリランカ南部のゴールに新たに設置した鳥骨炭を用いたフッ素除去フィルターも運転を継続する。運転データをスリランカ中部のWilgamuwa村に設置した装置の結果と比較しながら、骨炭の寿命や吸着特性に関してモデルを用いた解析を行い、多様な水質の原水にも対応できるように今後の設計に反映させる。 CKDu患者は、環境ネオニコチノイド中毒に特徴的とされる症状を訴えていること、イミダクロプリドが現地で多用されていることなどから、腎障害により本来尿から排泄されるべきネオニコチノイドが体内に蓄積して症状を発言している可能性が否定できない。これまでの12月と5月の調査結果では、尿中の代謝物の検出率に有意な差がみられたことから、農薬散布時(8月末)に尿を中心とした調査を実施する予定である。
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