今年度の実地調査は代表者の新谷が5月~6月にタイ国のチェンマイで、シャン語の文献に現れた山地民に関する記述を調査し、チェンダーオではラワン系言語の調査を行った。また、7月~8月にはタイ国のチェンマイ及びメーホーンソーンでカレン系言語の調査を行った。更に、平成30年2月~3月にかけてミャンマーのカヤー州でカヤン系言語の調査を行い、6種類の未知の言語を発見し、そのすべてについて語彙資料の収集に成功した。この調査で、カレン系言語の中でそり舌音の存在が世界で初めて確認された。 分担者の山田は8月にタイ国チェンマイ及びチェンラーイにおいてワ族及びプラン族に関する民族言語学的資料の収集と分析を行った。また、12月から平成30年1月にかけて、中国シプソンパンナーでプラン語の文法調査を行うとともに、同州内でのモン・クメール系未解明民族についての情報収集を行った。更に、平成30年3月にはタイ国チェンラーイにてワ語の音声データの確認作業及びプラン語の文法調査を行った。 以上の実地調査により、従来空白地帯となっていたシャン州南部からカヤー州にかけて分布しているカヤン系言語に関する実態が少しずつ明らかになってきた。従来、首に大きな輪を付けた人のグループをパダウン族と呼び、その言語は一つしかないものと考えられていたが、これが間違いであることがはっきりした。言語的に見た場合、首に大きな輪を付けているかどうかは言語を区分する基準にはならないし、首に輪を付けているグループの間でも少なくとも2種類の言語が存在する。 ワ系言語のうち、プラン語についてその分布とバリエーションの全体像が少しずつ明らかになってきた。また、ワ系言語には、語順や情報構造など統語論から語用論の領域にかけての内部差異が確認され、オーストロアジア語族の通時的変化という観点から大変興味深い情報が得られた。
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